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ニューロンと脳のダイナミクス:カオス、同期、伝搬

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九州工業大学
林 初男

第1章 はじめに


ニューロンや脳の非線形ダイナミクスといっても、その切り口は研究者によって異なり多様です。一つの切り口ではありますが、私もニューロンや脳に関する研究を常に非線形ダイナミクスの観点から行ってきました。

ニューロンはHodgkin-Huxleyモデル[ Hodgkin and Huxley, 1952 ]に代表されるようにコンダクタンスベースモデルで表すことができますので、決定論的な力学系であると考えられます。しかし、非線形ですので、1970年代まではその振舞いが十分わかっていたわけではありません。非線形現象としては、ニューロン活動が周期刺激に対して引き込まれることは当時わかってきていましたが[ Holden, 1976; Guttman et al., 1980 ]、そのほかにどのような振舞いを示すのか、皆目わかっていなかったのです。

実際に興奮性細胞(植物細胞にしろ動物細胞にしろ)を電気刺激してみればすぐ分かりますが、引き込みのようなきれいな応答だけではなく、どう理解してよいかわからない不規則な応答がいくらでも生じます。今ではカオスとして理解できるものがたくさんありますが、当時は雑音の影響を受けた不規則な振舞いに過ぎないという見方も否定できなかったのです。

雑音の影響を受けているとすれば、その雑音はどこから来るのかが問題になりますが、たとえば、イオンチャネルの開閉ゆらぎなどが原因ではないかと考えられていました。しかし、1個の単離した細胞の活動を見ているにもかかわらず、大きな雑音を受けたかのような不規則な応答や自発活動が生じるのはやはり納得の行くものではありませんでした。Hodgkin-Huxleyモデルが正しいとすれば、ニューロンは明らかに決定論的な力学系であり、ミクロなレベルの確率的振舞いがマクロなレベルの決定論的振舞いにこれほど大きく影響することは直感的には理解しにくかったのです。決定論的であるのであれば、ニューロンが非線形系として本来持つ性質として不規則応答が生じてもおかしくはないはずです。

ニューロカオスの発見[ Hayashi et al., 1982, 1983, 1985, 1986 ]はニューロンのダイナミカルな性質や機能に関する研究に新たな広がりを与えたと思います。つまり、上記のニューロンの不規則な振舞いが決定論的な非周期振動(カオス)だと理解できるようになったのです。1980年代は、ニューロンモデルを用いたカオス研究も盛んに行われました。その代表的な研究については[林, 2001]を参照してください。さらにニューロカオスの研究は脳のカオスの発見につながり[ Hayashi and Ishizuka, 1995; Ishizuka and Hayashi, 1996 ]、脳を非線形力学の枠組みで考える基礎を与えることができました。今日では、不規則現象を含め、ニューロン活動を決定論的力学現象として理解することができますので、適当な分岐パラメータを変化させて引き込みやカオスを起こしたり止めたりすることができます。カオスは雑音の影響を受けやすい活動ですが、カオス自体にとって雑音は本質ではありません。

ニューロンや神経回路網の非線形現象と脳の機能との関係はまだよくわかっていません。残された大きな問題です。次章以降で述べるように、記録する対象は、ニューロンのカオスを見る場合は膜電位であり、神経回路網のカオスを見る場合は電場電位(ニューロンの集団活動)です。カオスと脳機能との関係を調べるには、よりマクロな量を記録の対象にしなければならないのかもしれません。そうであればf-MRIに代表されるような脳の広範囲の活動を記録できる装置の性能向上が期待されますが、高い処理能力を持ったコンピュータの力を借りてこの問題を探究するのも一つの方法だと思います。決定論的力学方程式で記述したニューロンを用いて脳のモデルを作るというのは極論かもしれませんが、コンピュータの処理能力が飛躍的に向上した今日、あながち極論とは言えなくなっています。研究室レベルのコンピュータであっても、数千~数十万個のニューロンを用いた神経回路網を扱うことが可能になってきたのです。脳全体とは言わなくても、脳のある機能部位のリアルなモデルを研究室レベルで作ることが可能になるかもしれません。このように脳機能を再現できるリアルなモデルが扱えるようになると、脳の情報処理機構の理解が飛躍的に進むだけではなく、脳型の情報処理機械の実現にも大きく貢献できる可能性があります。なぜなら、コンピュータや専用ハードウェアの上で脳機能が実現されるわけですから。

参考文献

  1. Hodgkin AL and Huxley AF (1952) A quantitative description of membrane current and its application to conduction and excitation in nerve. J. Physiol. 117: 500-544. Link
  2. Holden AV (1976) The response of excitable membrane models to a cyclic input. Biol. Cybern. 21: 1-7. Link
  3. Guttman R, Feldman L, and Jakobsson E (1980) Frequency entrainment of squid axon membrane. J. Memb. Biol. 56: 9-18. Link
  4. Hayashi H, Ishizuka S, Ohta M, and Hirakawa K (1982) Chaotic behavior in the Onchidium giant neuron under sinusoidal stimulation. Phys. Lett. 88A: 435-438. Link
  5. Hayashi H, Ishizuka S, and Hirakawa K (1983) Transition to chaos via intermittency in the Onchidium pacemaker neuron. Phys. Lett. 98A: 474-476. Link
  6. Hayashi H, Ishizuka S, and Hirakawa K (1985) Chaotic response of the pacemaker neuron. J. Phys. Soc. Japan 54: 2337-2346. Link
  7. Hayashi H, Ishizuka S, and Hirakawa K (1986) Instability of harmonic responses of Onchidium pacemaker neuron. J. Phys. Soc. Japan 55: 3272-3278. Link
  8. 林「脳とカオス」裳華房(2001) Link
  9. Hayashi H and Ishizuka S (1995) Chaotic responses of the hippocampal CA3 region to a mossy fiber stimulation in vitro. Brain Res. 686: 194-206. Link
  10. Ishizuka S and Hayashi H (1996) Chaotic and phase-locked responses of the somatosensory cortex to a periodic medial lemniscus stimulation in the anesthetized rat. Brain Res. 723: 46-60. Link



第2章 巨大ニューロンのカオス応答


ニューロンに活動電位が発生すると、そのあとに絶対不応期や相対不応期が生じます。そのため、高頻度のインパルス入力が加わると、しばしば活動電位の形や潜時が変化します。したがって、1個のニューロンといえども、その応答は複雑で、一見ランダムに見える不規則な応答も生じます。この不規則な応答は、決定論的な非線形力学系にみられるカオスと呼ばれる非周期振動です。

興奮性細胞のカオスは心筋細胞 [Guevara et al. 1981] やシャジクモ節間細胞 [Hayashi et al. 1982a] でも明らかにされていますが、ニューロンのカオスについては1982年にその証拠が初めて示されました [Hayashi et al. 1982b]。実験にはイソアワモチという軟体動物(図2.1)の食道環神経節にある巨大静止ニューロンが用いられ、ガラス微小電極を用いて交流電流刺激に対する膜電位のカオス応答が記録されました。

図2.1  イソアワモチ。暖かい海の岩場に棲む軟体動物。鹿児島県の桜島で採取。


膜電位 V とその時間微分 dV/dt を軸にとった二次元平面を用いて、不規則な応答波形からアトラクタを再構成することができます(図2.2)。左右の図は同じ応答波形から求めたアトラクタですが、図2.2(a)では高いレートでサンプルした短時間の波形を用いていますので、軌道がどのように走っているかを見ることができます。それに対し、図2.2(b)では低いレートでサンプルした長時間の波形を用いていますので、アトラクタの概形を見ることができます。このアトラクタはストレンジアトラクタと呼ばれているもので、初めて示されたニューロカオスの証拠です [Hayashi et al. 1982b]。

図2.2  二次元平面 (V - dV/dt) に射影した軌道とストレンジアトラクタ。イソアワモチ巨大静止ニューロンのカオス応答。(a) 高いレートでサンプルした短時間の波形から再構成しているので、軌道を見ることができる [林「脳とカオス」、2001 から引用]。(b) 低いレートでサンプルした長時間の波形から再構成しているので、アトラクタの概形を見ることができる [Hayashi et al., 1982b から引用]。


図2.3  三次元空間 (φ - V - dV/dt) で描いた軌道とストレンジアトラクタ。イソアワモチ巨大静止ニューロンのカオス応答。模式図。(a) 軌道。P1, P2, …は、軌道と平面 S の交点。(b) アトラクタの概形。a ~ i は9枚の平面 S でアトラクタを切った断面。図2.4 の a ~ i に対応。 [林「脳とカオス」、2001 の図を改変]


図2.2のアトラクタがストレンジアトラクタであることを示すには、このアトラクタの幾何学構造を調べるのがもっとも確実な方法です。この実験では周期刺激として交流電流がニューロンに加えられていますので、交流電流の位相 φ を新たな軸として追加した三次元空間で調べるのが良い方法です(図2.3)。軌道が 0 < φ < 2π の範囲で模式的に重ね描きされており(図2.3(a))、アトラクタの概形は図2.3(b)に模式的に示されています。φ 軸を輪に曲げてφ 軸に垂直な2つの面(φ = 0 と φ = 2π)を接着すればトーラスになります。

φ 軸に垂直な平面 S で軌道を切ると、平面 S と軌道の交点{P1, P2, P3, ---}が得られます(図2.3(a))。これらの交点の集合がアトラクタの断面を与えます。図2.3(b) では、9枚の平面でアトラクタを切った断面が示されています(a ~ i)。これらの断面を実験で記録した応答波形から求めるのは簡単で、それぞれの位相 φ で交流電流の周期ごとに応答波形をサンプルし、それらを二次元平面(V - dV/dt)にプロットすれば断面が得られます。図2.4は、そのようにして、実験で記録したカオス応答から得られたアトラクタの断面です。

図2.4  ストレンジアトラクタの断面。イソアワモチ巨大静止ニューロンのカオス応答。点線はストレンジアトラクタの概形を表す。アトラクタの引き伸ばし (b~d) と折れ畳み (e~h) が起きていることがわかる。(j) は (a)~(i) の断面を求めた交流電流の位相φを表す。[Hayashi et al., 1982b から引用]


図2.5  一次元写像。イソアワモチ巨大静止ニューロンのカオス応答。φ = 150°。(a) と (b) は同じデータ。(a) V0 = F(V0) を満たすので、V0 は固定点。(b) 青色の線は写像の繰り返しを表す。[Hayashi et al., 1982b の図を改変]


これらの断面が一次元的であることから、アトラクタは扁平な帯の形をしていることが分かります(図2.3(b))。これは帯の面に垂直な方向には安定(固有値が負)で、軌道はアトラクタに引き寄せられますが、帯の面内では不安定(固有値が正)で、軌道間の距離が指数関数的に大きくなるためです。この性質はストレンジアトラクタの双曲性と呼ばれています。詳しくは、林「脳とカオス」2.2節、2001 Link を参照してください。軌道の発散の指数をアトラクタ全体で平均した量はリアプノフ指数と呼ばれており、初期条件に対する敏感さを表します。

また、断面が次第に引き伸ばされ(図2.4(b)~(d))、折れ畳まれている(図2.4(e)~(h))ことが分かります。これはアトラクタの引き伸ばしと折れ畳みと呼ばれており、これが交流電流の周期ごとに繰り返されるので、アトラクタの中を走る軌道は混合されることになります。その結果、軌道はアトラクタ内を複雑に走り、予測不可能になります。これがカオス生成の機構であり、このようなアトラクタをストレンジアトラクタと呼んでいます。アトラクタの引き伸ばしと折れ畳みによって生じるニューロンの不規則な応答は、ランダム現象ではなく、決定論的だということがわかります。

図2.3(a)で示した平面と軌道の交点の時系列{P1, P2, P3, ---}の V 座標から一次元写像 F : VnVn+1 を求めることができます(図2.5)。写像 F と対角線の交点は V0 = F(V0) を満たすので固定点ですが、この固定点 V0 での写像の傾きは -1 より小さいので、固定点は不安定です(図2.5(a))。したがって、図2.5(b)に示すように、不安定固定点 V0 近傍の交点 V1 から時間発展させると、軌道が平面と交わるたびに交点は不安定固定点 V0 から振動的に離れていきます。写像が上に凸な関数であるので、交点はそのうち不安定固定点近傍に押し戻されますが、再び不安定固定点から離れていき、いつまでもさまよい続けることになります。換言すれば、交点 P1 = (V1, dV1/dt) を通る軌道は交点 P0 = (V0, dV0/dt)(不安定固定点)を通る不安定周期軌道から次第に離れていきますが、アトラクタが折れ畳まれているため、時々不安定周期軌道の近くに押し戻され、再び離れていきます。固定点が不安定であることはストレンジアトラクタの引き伸ばしに対応し、写像が上に凸であることはストレンジアトラクタの折れ畳みに対応しています。

以上述べたように、ニューロンのカオス応答はとても簡単な写像(力学則)で生み出されています。このようにニューロカオスの証拠が実験で与えられたあと、ニューロンモデルを用いたニューロカオスに関する詳細な研究が数多くなされ、ニューロンのダイナミカルな性質に関する研究に新たな広がりが生じました。ニューロンモデルのカオスや分岐現象に関する代表的な研究については、林「脳とカオス」、2001 Link を参照してください。

参考文献

  1. Guevara MR, Glass L, and Shrier A (1981) Phase locking, period-doubling bifurcation, and irregular dynamics in periodically stimulated cardiac cells. Science 214: 1350-1353.Link
  2. Hayashi H, Nakao M, and Hirakawa K (1982a) Chaos in the self-sustained oscillation of an excitable biological membrane under sinusoidal stimulation. Phys. Lett. 88A: 265-266. Link
  3. Hayashi H, Ishizuka S, Ohta M, and Hirakawa K (1982b) Chaotic behavior in the Onchidium giant neuron under sinusoidal stimulation. Phys. Lett. 88A: 435-438. Link
  4. 林初男 「脳とカオス」 裳華房、2001 Link



第3章 ペースメーカーニューロンのカオス応答


第2章では、イソアワモチの食道環神経節にある巨大ニューロンを用いた実験で明らかになった、カオス応答について述べました。この食道環神経節には、ノーマルな環境(たとえば、人工海水中)で自発的に発火を繰り返すペースメーカーニューロンも存在します。この章では、このペースメーカーニューロンを用い、周期刺激に対する引き込みやカオス応答と分岐現象について述べます。

図3.1の相図の横軸と縦軸は、それぞれ刺激電流の周波数と強さを表しています。引き込み(1:1、1:2、1:3)やカオス(★、▲、☆)を起こす領域が存在し、刺激の周波数と強さに依存して分岐する様子が分かります。1:1 と 1:2 引き込みの領域の間では、図3.2 に示すように 3:4、2:3、3:5 などのより複雑な引き込みが生じ、間欠性カオスなども生じます。1:2 と 1:3 引き込みの領域の間でも同様です。

図3.1  イソアワモチペースメーカーニューロンの周期刺激に対する応答の相図。f i: 刺激周波数、f o: 自発発火の周波数、SR: しきい値以下の膜電位領域で生じた刺激に対する応答の振幅、AP: 活動電位の振幅。ここでは、たとえば刺激の2周期に1回発火する応答を 1:2 引き込みと呼んでいる。[Hayashi et al., 1985 の図を改変


図3.2  イソアワモチペースメーカーニューロン。1:1 と 1:2 引き込み領域の間で生じるいろいろな引き込み。たとえば、4/5 は 4:5 引き込みを意味する。[林, 石塚, 1993 から引用]


刺激の周波数と強さに依存して、三種類のカオス (★、▲、☆) が生じます。これらのカオス応答の波形とアトラクタが 図3.3図3.4 にそれぞれ示されています。アトラクタを再構成したこの三次元空間では、交流電流の位相ではなく、電流 I を一つの軸にとっています。話が長くなりますので ▲ 印と ☆ 印のカオスについては省略し、ここでは ★ 印のカオスについて述べます。他のカオスについては [Hayashi et al. 1985,1986] または [林「神経システムの非線形現象」3.2.2節, 1998] を参照してください。

図3.3  イソアワモチペースメーカーニューロンのカオス応答。各パネルの上のトレースが応答波形で、下のトレースが刺激電流。[Hayashi et al., 1985 の図を改変


図3.4  イソアワモチペースメーカーニューロンのカオス応答から再構成したアトラクタ。[Hayashi et al., 1986 の図を改変



第2章と同様に、交流電流のある位相で応答波形とその微分波形をサンプルして得られた時系列を平面 (V - dV/dt) にプロットすると、 図2.5と同様なアトラクタの断面を得ることができます(図3.5)。アトラクタが引き伸ばされ(図3.5(a)~(c))、次に折れ畳まれている(図3.5(d)~(i))ことが分かります。また、これらの時系列から一次元写像を求めることができます(図3.6)。この一次元写像の固定点(写像と対角線の交点)は不安定ですので、固定点近傍に初期条件を取って写像を繰り返すと、写像点は固定点から振動しながら離れていきます。しかし、上に凸な写像ですので、写像点は固定点近傍に押し戻され、再び固定点から離れていきます。このように、カオス応答(★)が図2.6と同様な力学則に従っていることが分かります。


図3.5  イソアワモチペースメーカーニューロンのカオス応答 ★ から再構成したアトラクタの断面。(a)~(i) 平面 (V - dV/dt) に射影した断面。(j) に示す正弦波刺激電流の位相 a ~ i で応答波形をサンプルして (a)~(i) の断面を求めた。点線はアトラクタの概形。[Hayashi et al., 1987 から引用


図3.6  イソアワモチペースメーカーニューロンのカオス応答 ★ から求めた一次元写像。応答波形をサンプルした正弦波刺激電流の位相は 150°。[Hayashi et al., 1983 から引用


図3.1の相図を見てわかるように、1:2 引き込みからは周期倍分岐することなく一気にカオスに分岐しています。これは一次元写像が上に尖った形をしているからです (詳しくは[Hayashi et al. 1985] を参照してください)。

参考文献

  1. Hayashi H, Ishizuka S, and Hirakawa K (1983) Transition to chaos via intermittency in the Onchidium pacemaker neuron. Phys. Lett. 98A: 474-476. Link
  2. Hayashi H, Ishizuka S, and Hirakawa K (1985) Chaotic response of the pacemaker neuron. J. Phys. Soc. Japan 54: 2337-2346. Link
  3. Hayashi H, Ishizuka S, and Hirakawa K (1986) Instability of Harmonic responses of Onchidium pacemaker neuron. J. Phys. Soc. Japan 55: 3272-3278. Link
  4. Hayashi H and Ishizuka S (1987) Chaos in molluscan neuron. in “Chaos in Biological Systems” Eds. Degn H, Holden AV, and Olsen LF, NATO ASI Series, A 138: 157-166, Plenum Press. Link
  5. 林初男 (1998) 「神経システムの非線形現象」 コロナ社. Link
  6. 林初男, 石塚智 (1993) ニューロンおよびニューラルネットワークの活動の複雑さ ―カオス―, 「ニューラルシステムにおけるカオス」 合原一幸編著, 第1章, pp.1-48, 東京電機大学出版局. Link



第4章 ペースメーカーニューロンが自発的に起こすカオス


第 2 章と第 3 章では、周期刺激に対するニューロンのカオス応答や分岐現象について述べました。この章では、イソアワモチのペースメーカーニューロンを用いて、周期刺激が無くてもニューロンが自発的にカオスを起こすことを示します。

ペースメーカーニューロンの多くは、活動電位の群発が比較的長い時間間隔をおいて繰り返す、いわゆるバースト発火を起こします(図4.1)。これはゆっくりした膜電位振動を作るイオン電流がニューロンに存在するためで、膜電位振動の脱分極相で活動電位が群発し、過分極相で発火が止まるからです。このようなペースメーカーニューロンを速いサブシステム(活動電位の群発)と遅いサブシステム(ゆっくりした膜電位振動)から成る力学系と考えると、これらのサブシステム間の相互作用によってバースト発火が起きる力学的機構を理解することができます。この力学的機構の詳細については、[Rinzel, 1987] あるいは [林「脳とカオス」3.5節、2001] を参照してください。


図4.1  イソアワモチペースメーカーニューロンの自発バースト発火 [Hayashi and Ishizuka, 1992 の図を改変


図4.2  イソアワモチペースメーカーニューロンの自発発火パターン。(a) 周期 1、Idc = 0.96 nA。(b) 周期 2、Idc = 0.41 nA。(c) 周期 4、Idc = 0.26 nA。(d) カオス、Idc = 0.185 nA。(e) 周期 3、Idc = -0.11 nA。Idc はニューロンに加えた直流電流。ニューロンの内側から外側への電流を正としている。 [Hayashi and Ishizuka, 1992 の図を改変


ゆっくりした膜電位振動と活動電位の群発(速い振動)は膜電位を介して相互作用するので、ペースメーカーニューロンを脱分極したり過分極したりすると、いろいろな発火パターンを起こします。実際、脱分極状態から膜電位を下げていくと、周期1、周期2、周期4、・・・、カオス、周期バースト発火(周期 3)へと分岐していきます(図4.2)。特に周期1 からカオスへの分岐では、分岐を起こすたびに周期が倍になっていくので、周期倍分岐と呼ばれています。

図4.2(a), (b), (d) および (e)の発火パターンから再構成したアトラクタが、それぞれ 図4.3(a)~(d)に示されています。周期 1、周期 2 および周期 3 のアトラクタは、それぞれ1つ、2つ および 3つの軌道から成っていますが、カオス発火パターンから再構成されたアトラクタ(図4.3(c))は、軌道が不安定であるため、周期軌道には収束しません。このアトラクタがストレンジアトラクタであることは、第2、3章と同様に、アトラクタの幾何学構造や一次元写像を求めることによって明確にすることができます。


図4.3  イソアワモチペースメーカーニューロンの自発発火パターン(図4.2(a), (b), (d), (e))から再構成したアトラクタ。(a)周期 1、(b)周期 2、(c)カオス、(d)周期 3。周期 3 の内側の軌道は接近した 2 本の軌道から成る。赤色の平面 S は、アトラクタの断面を調べるために用いた平面。τ = 4 ms。[Hayashi and Ishizuka, 1992 の図を改変


図4.4  アトラクタの断面。(a) 平面 (V (t) - V (t+τ)) に射影された 図 4.3(c) のアトラクタ。図4.3(c) の平面 S の位置が原点 O から伸びる直線と角度で示されている。(b) 平面 S で切ったアトラクタの断面。図中に示されている角度は平面 S の位置を表している。アトラクタの引き伸ばしと折れ畳みが生じている。 [Hayashi and Ishizuka, 1992 から引用


図4.5  ストレンジアトラクタ(図4.3(c))の引き伸ばしと折れ畳みの様子を示す模式図。アトラクタが折れ畳まれることによって、離れていくはずの軌道が接近する。[林, 1998 の図を改変


図4.3(c)に示すように、平面 S でアトラクタを切って断面を求めたものが図4.4(b)です。この断面は軌道と平面 S の交点の集合を表しています。リング状のアトラクタの中心を通る V (t + 2τ) 軸に平行な z 軸の周りで平面 S を回転させ、複数の断面を求めています。アトラクタを切った平面の位置(角度)は図4.4(a)に示されています。これらの断面からわかるように、図4.3(c)のアトラクタはやはり扁平で双曲性を持っています。また、断面の変化からアトラクタの引き伸ばしと折れ畳みが起きていることがわかります(図4.4 の 240°~ 330°)。したがって、不安定な軌道はアトラクタを一周するたびに混合されていきます(図4.5)。その結果、膜電位の振動は不規則で予測不可能になります。

軌道と平面 S の交点の時系列から一次元写像を求めることができます(図4.6)。周期1、周期2 および 周期3 の一次元写像は、それぞれ 1つ、2つ および 3つ のクラスタ(交点の集合)から成っています。それに対し、カオス発火の一次元写像は上に凸な関数を示しています。この固定点(写像と対角線の交点)は不安定ですので、写像点は固定点から次第に離れていきます。写像点は時々固定点付近に戻ってきますが、再び固定点から離れていきます。すなわち、カオス発火の軌道は、周期軌道に収束することはなく、不規則に走ることになります。

アトラクタの幾何学構造と一次元写像は、図4.2(d)の不規則な発火がカオスであり、図4.3(c)のアトラクタがストレンジアトラクタであることを明確に示しています。


図4.6  図4.3 の軌道と平面 S(240°)の交点の時系列から求めた一次元写像。イソアワモチペースメーカーニューロンの自発発火。Hayashi and Ishizuka, 1992 から引用


ペースメーカーニューロンの自発発火は、周期刺激に対する応答(図3.1)と異なり、周期倍分岐を繰り返してカオスに分岐します(図4.2)。これはカオス発火パターンから求めた一次元写像(図4.6(カオス))が上に鋭く尖っていないためです。このような放物型の写像が起こす周期倍分岐については、たとえば [May, 1976] を参照してください。

さて、生理学的知見に基づいて、イソアワモチペースメーカーニューロンのコンダクタンスベースモデル を下のように作ることができます。

<math>\begin{align}

\scriptstyle{C_m\dot{V}}&\scriptstyle{=g_{Na}m^3h\;(V_{Na}-V)+g_{K}n^4(V_K-V)+g_{Nas}m_sh_s(V_{Na}-V)+g_{Ks}n_s(V_K-V)} \\ &\scriptstyle{+g_{Ki}n_i(V_K-V)+g_L(V_L-V)-I_p+I_{dc}} \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad (4.1) \end{align} </math>

<math>\begin{align}

\scriptstyle{\dot u=}{{\scriptstyle{\alpha _u-(\alpha _u+\beta _u)\,u}} \over {\scriptstyle{\lambda _u}}},\quad \quad u\in \left\{ {m,h,n,m_s,h_s,n_s,n_i} \right\} \end{align} </math>

式4.1 の右辺第 1、2 項は活動電位を発生させる Na+ と K+ 電流です。第3、4項は時定数の大きな Na+ と K+ 電流でゆっくりしたペースメーカー振動(図4.1 の点線)を作ります。第 5~8 項はそれぞれ異常整流 K+ 電流、リーク電流、ポンプ電流および直流バイアス電流です。ここでは、直流バイアス電流 Idc が分岐パラメータです。モデルの詳細については [Hayashi and Ishizuka, 1992] または [林「脳とカオス」3.7節、2001] を参照してください。

Idc を分岐パラメータとして求めた分岐図(図4.7)を見ると、Idc を減少させたとき、周期倍分岐を無限に繰り返してカオスに分岐することがわかります。このニューロンモデルで再現した周期1、周期2 および カオスの発火パターンは図4.8に示されています。実験で観測したカオス発火パターンから一次元写像を求めた方法と同様にして、図4.8(c)のカオス発火パターンから一次元写像を求めると、図4.9のようになります。実験データ(図4.6(カオス))と数値計算結果(図4.9)が良く合っていることがわかります。


図4.7  イソアワモチペースメーカーニューロンモデルの分岐図。縦軸は活動電位のピーク電位。Idc はニューロンに加えた直流バイアス電流。 [Hayashi and Ishizuka, 1992 から引用


図4.8  イソアワモチペースメーカーニューロンモデルの自発発火パターン。(a)周期 1、Idc = -1.2 nA。(b)周期 2、Idc = -1.8 nA。(d)カオス、Idc = -2.34 nA。 [Hayashi and Ishizuka, 1992 から引用

図4.9  イソアワモチペースメーカーニューロンモデルの自発発火パターン(カオス)から求めた一次元写像 [Hayashi and Ishizuka, 1992 から引用


以上述べたように、ペースメーカーニューロンの発火パターンは脱分極や過分極によって容易に変わります。静止ニューロンは入力信号に対して発火するかどうかを選択しますが、ペースメーカーニューロンは、入力信号やニューロモジュレータなどによって膜電位が少し変わると、発火パターンを敏感に変えて情報を発信できることを示唆しています。

参考文献

  1. Hayashi H and Ishizuka S (1992) Chaotic nature of bursting discharges in the Onchidium pacemaker neuron. J. Theor. Biol. 156: 269-291. Link
  2. 林初男 (1998) 「神経システムの非線形現象」 コロナ社 Link
  3. May RM (1976) Simple mathematical models with very complicated dynamics. Nature 261: 459-467. Link
  4. Rinzel J (1987) A formal classification of bursting mechanisms in excitable systems. Lecture Notes in Biomathematics 71: 267-281, Springer-Verlag. Link



第5章 海馬のカオス応答


第2~4章で、ニューロンのカオス応答や自発的なカオス活動について述べました。ニューロンのカオスが明らかになると、脳の活動にカオスが存在するか、という問題に研究者の興味が移るのは自然なことです。もし脳の複雑な活動がカオスであれば、脳の活動を決定論的な枠組みで記述できることになり、それは脳機能を理解する上でも重要です。第5章では、脳のカオス応答をどのようにして観測できるのか、それはどのような性質を持っているのか、などについて述べます。

ニューロンのカオス活動に関する研究は1980年代に急速に進みましたが、脳のカオス活動の証拠はなかなか得られませんでした。それは1個のニューロンの活動ではなく、おびただしい数の多種類のニューロンから成る神経回路網(ニューロン集団)の活動が観測対象になったことが原因だったと思います。脳の中では、ニューロンは互いに興奮性と抑制性に結合し、相互作用しています。したがって、多くの場合、個々のニューロンの周期発火やカオス発火が、そのままの形で脳の活動として現れてくるわけではありません。個々の人間のダイナミクスが分かったからと言って、大勢の人間が集まった集団のダイナミクスがすぐ理解できるわけではないように、仮に個々のニューロン活動をつぶさに観測できたとしても、脳活動のダイナミカルな性質を明らかにするのは容易でないでしょう。

元々カオス研究の対象は“低次元”カオスでした。非常に低い次元(数次元程度)であっても、非線形な決定論的力学系が予測不可能で複雑な振舞いをすることが、むしろ研究者たちにとって驚きであり、関心事だったのです。しかし、非常に多くのニューロンから成る神経回路網の力学的次元は一般に非常に高くなります。

脳のカオスの証拠を得るために、多くの研究者は頭皮上から記録したヒトの脳波を用いました。確かに脳波はニューロン集団の振舞いを反映した脳の活動です。しかし、脳波は脳の広範囲の神経活動を反映したもので、気の遠くなるような数のニューロン活動を同時に見ていることになります。このような高次元の力学系で “低次元” カオスの証拠を得ようというわけですから、やっていることが矛盾しているように見えます。また、脳波は一般に時々刻々変化する脳の状態を反映した非定常な現象です。これもカオス解析を困難にしていたと思います。研究者とは不思議な人種で、それでも脳にカオス活動が存在すると信じて研究を行ったのです。論理を重んじる科学の世界で、このような一見ばかげた信念を持つことが科学者の資質としては大事なのでしょう。

脳にカオスが存在する可能性を最初に示したのは Babloyantzら (1985) でした。ヒトの睡眠時の脳波の力学的次元(正確には相関次元)が数次元程度であることを示したのです。これは確かに大変な驚きでした。これが脳のカオスを追い求める研究に非常に多くの研究者を駆り立てたのだと思います。しかし、1990年ごろに、相関次元を求めるアルゴリズム[Grassberger & Procaccia, 1983]をそのまま脳波に用いると、誤った次元が得られる危険性が示されました[Osborne & Provenzale, 1989; Rapp et al., 1993]。バンドパスフィルターを通した雑音の相関次元が非整数の小さな値になり、雑音がカオスであるかのように見えてしまうのです。脳波も通常はバンドパスフィルターを通して観測されます。したがって、低い相関次元に基づいて議論を展開してきた数多くの論文の信憑性が疑われてしまいました。

その後、サロゲートアルゴリズム[Pijn et al., 1991; Theiler et al., 1992]など、Grassberger-Procaccia アルゴリズムをうまく使う試みがなされました。確かにこれらの試みで、脳波は必ずしもランダム現象ではないと主張できるようになったと思います。しかし、ランダムでないという結果が得られても、それはカオスであることの証拠としては非常に弱いものでした。カオスであることの証拠にはならなかったと言ってもよいかもしれません。

ところで、神経回路網にあるたくさんのニューロンは、興奮性および抑制性に相互作用しますので、複雑な時空活動を起こします[Tateno et al., 1998]。しかも、これらのニューロンは、ばらばらに活動しているのではなく、同期する性質を持っています[Boddeke et al., 1997; Laurent, 1996; Whittington et al., 1995]。頭皮上から脳波を記録できるということ自体がそれを物語っています。ニューロン活動の同期は神経回路網の活動の空間的一様性を高めるので、それだけ少ない力学変数で現象を記述できる可能性があります。

通常観測される健全な脳波の振幅がそれほど大きくないことからわかるように、神経回路網の活動がある程度空間的に一様だとしても、脳全体あるいは脳のある部位が全く一様に活動するわけではありません。多分、時間と共に脳のあちこちで局所的にニューロン活動が同期したり同期から外れたりしていると考えられ、多くの場合、脳波の力学的次元は低次元カオスの解析ができるほどには低くなっていないと考えられます。

しかし、脳のニューロン活動の同期がさらに進む場合はいろいろ考えられます。一つには、シータリズムやデルタリズムなどのリズム活動が起きている場合が考えられます。他には、周期的な入力を受けてニューロン活動の同期が一時的に促進される場合も考えられます。そのような脳の一部位では、想像以上に力学的次元が下がっている可能性があります。


図5.1  海馬の横断面と電極の配置。双極電極で苔状線維を刺激し、4本のガラス微小電極(A ~ D)で CA3 錐体細胞層から電場電位を記録した。ガラス微小電極の間隔は約 250 µm。[Hayashi & Ishizuka, 1995 の図を改変


私たちは、1980年代の終わりごろ、脳にカオスが存在する証拠をラットの脳を用いて得ようとしていました。議論を積み重ねた結果、海馬CA3領野と新皮質第一次体性感覚野で試みることにしました。海馬は新皮質の下にあるので、脳から切り出した海馬の横断面スライスを用いることにし、第一次体性感覚野の活動は新皮質の表面に置いた電極で記録できるので、麻酔をかけたラットを用いることにしました(第一次体性感覚野のカオス応答については後続の章で述べます)。

海馬CA3領野では、豊富な反回性結合に加え、ニューロンは活発な自発活動を起こしています。このCA3領野は記憶や認識に強く関わっているシータリズムを起こしますので、ニューロン活動はかなりよく同期していると考えられます。また、海馬の錐体細胞は同じ向きに並んで層を成していますので、錐体細胞層に置いた細胞外記録用のガラス微小電極で、錐体細胞集団の同期した活動を電場電位として観測することができます(図5.1)。

しかし、海馬をスライスとして取り出すと、人工脳髄液(ACSF)で還流したノーマルな環境では、海馬スライスがリズム活動を自発的に起こすことはほとんどありません。海馬スライスのCA3領野にリズム活動を起こす方法はいろいろありますが、私たちはペニシリンで反回性GABAA抑制をある程度抑え、さらに灌流液のK+濃度を少し高くして錐体細胞を少し脱分極させ、CA3錐体細胞の同期したバースト発火が自発的に繰り返し起こるようにしました(図5.2a)。このバースト発火の間隔は約3秒(0.33 Hz)です。

図5.1 に示したガラス微小電極で観測した電場電位振動(図5.2a)はスパイク列のように見えますが、時間軸方向に拡大するとゆっくりした電場電位変化(持続時間約 40 ms)であり、これに速い電場電位変化(群発した活動電位)が乗っていることが分かります(図5.2b)。このゆっくりした電場電位変化はCA3錐体細胞の集団活動を反映しており、振幅が大きいほど、より多くの錐体細胞がほぼ同期して発火したことを示しています。したがって、錐体細胞の集団活動のダイナミクスを調べるには、ローパスフィルタを通して速い電場電位変化を除いたゆっくりした電場電位変化(図5.2c)を用いればよいということになります。


図5.2  海馬 CA3 領野で生じた自発バースト発火。人工脳髄液(ACSF)にペニシリン(2 mM)を加えて起こした。ACSF の K濃度は 8 mM。図5.1 の電極 C で電場電位を記録。(b) は (a) を時間軸方向に拡大したもの。(c) は (b) をカットオフ周波数 25 Hz のローパスフィルターに通したもの。[Hayashi & Ishizuka, 1995 の図を改変


このような電場電位振動を起こしている海馬 CA3 領野に苔状線維から周期的にシナプス入力を加えると、CA3 錐体細胞集団の応答を観測することができます。苔状線維刺激には双極電極を用い、CA3 錐体細胞層から 4 本の細胞外記録電極(ガラス微小電極)で電場電位の応答を記録しました(図5.1)。パルス電流で刺激すると苔状線維の束が興奮しますので、パルス電流が強くなると、より多くの入力がCA3錐体細胞集団に加わることになります。


図5.3  苔状線維刺激に対する海馬 CA3 領野の電場電位応答。縦軸と横軸は、それぞれ苔状線維刺激の強さと周波数。1:nn = 1, 2, 3, 4)は n 回の刺激で 1 回バースト発火する引き込み。領域(▲、■、◆)では複雑な引き込みや不規則な応答が生じる。Chaos:カオス応答。☆:ランダムな応答。[Hayashi & Ishizuka, 1995 から引用


刺激に用いたパルス電流の振幅 I (刺激の強さ)を縦軸にとり、パルス間隔 T の逆数(刺激周波数)を横軸にとった相図でCA3錐体細胞層の電場電位応答を見ると、刺激の強さと周波数に依存して引き込みやカオス応答が生じることが分かります(図5.3)。矢印に沿って刺激周波数を増加させると、1:1 引き込みから 1:2 引き込み、カオス、1:3 引き込みへと分岐します 。1:2 引き込みとカオスの間で周期倍分岐の繰り返しが期待されますが、実際には観測できていません。後で示すように、カオス応答の一次元写像は上にかなり尖った形をしていますので、周期倍分岐の繰り返しが起きないか、あるいは起きるとしても非常に狭い範囲で起きていると考えられます。

図5.4 a と b に 1:1 引き込みとカオス応答の例が示されています。図5.4(i) の下のトレースは苔状線維刺激に用いた周期パルス電流であり、上のトレースは CA3 錐体細胞層から記録した電場電位応答です。1:1 引き込みの場合は、刺激パルスが加わると常に同じ大きさの電場電位応答(バースト発火)が生じていますが(図5.4a(i))、カオス応答の場合は、刺激のたびに電場電位応答の振幅が不規則に変化していることが分かります(図5.4.b(i))。

電場電位応答を時間軸方向に拡大し、連続する 10 個の電場電位応答を刺激パルスを基準に重ね描きすると、1:1 引き込みの電場電位応答は振幅のみならず形も常に一定であることがよく分かります(図5.4a(ii))。それに対し、カオス応答の場合は、電場電位応答の振幅が大きく変動しており、バースト発火した錐体細胞の数や同期の程度が刺激を受けるたびに大きく変動していることが分かります(図5.4b(ii))。


図5.4  苔状線維刺激に対する海馬 CA3 領野の電場電位応答。(a) 1:1 引き込み。(b) カオス応答。(i) 下のトレースは苔状線維刺激に用いた電流パルス列。上のトレースは電場電位応答。(ii) 上のトレースは連続する 10 個のバースト発火を刺激パルスを基準にして重ね描きしたもの。下のトレースは刺激パルス。(iii) 時間ずらしの空間で再構成したアトラクタ。τ = 10 ms。(iv) 刺激の周期ごとに電場電位応答をサンプルした時系列データから求めた一次元写像。[(i), (iii), (iv) は Hayashi & Ishizuka, 1995 から引用;(ii) は林, 石塚 1997 から引用


図5.4(iii)は時間ずらしの空間(V(t), V(t+τ), V(t+2τ))で再構成したアトラクタです。V は電場電位で、τ はずらした時間です。1:1 引き込みの場合は、電場電位応答の大きさと形は常に一定ですので、軌道は安定な一つのループを描いています(図5.4a (iii))。カオス応答の場合は、電場電位応答の大きさが変化するので軌道も時間ずらしの空間を不規則に走り、ストレンジアトラクタが再構成されています(図5.4b (iii))。

苔状線維刺激の周期で電場電位をサンプルして得られる時系列データから一次元写像を求めると、1:1引き込みの場合は、サンプルされた電場電位が対角線上の安定固定点の周りに集まっていることが分かります(図5.4a (iv))。それに対し、カオス応答の場合、一次元写像は不安定固定点(一次元写像と対角線の交点)を持つ上に凸な関数になります(図5.4b (iv))。改めて説明するまでもないと思いますが、固定点近傍を通る軌道は固定点の周りで振動しながら離れていき、写像が上に凸であるので、軌道はそのうち固定点近傍に押し戻されます。しかし、固定点は不安定ですから、軌道は再び固定点から離れていき、いつまでもさまようことになります。この一次元写像は、CA3錐体細胞集団が苔状線維からの周期入力に対してカオス的に応答することの明確な証拠を与えています。つまり、個々のニューロン活動ではなく、苔状線維からの入力に対してバースト発火した錐体細胞の数や同期の強さがカオス的に変動しているのです。これはニューロン集団の活動が決定論的な力学則に従っているということであり、脳のダイナミカルな振舞いを考えるときの大事な視点だと思います。同期可能なサイズのニューロン集団を一つのユニットとして考える神経回路網モデルはかなり良い脳研究の戦略になるのかもしれません。

図5.1に示すように、海馬 CA3 領野の 4ヵ所(約 250 μm 間隔で記録電極を配置)から電場電位を同時記録して、それらの相互相関関数を求めると、引き込みやカオス応答が空間的にどれくらい同期しているかを調べることができます。引き込みの場合もカオス応答の場合も、これらの相互相関関数は中央(t = 0)に大きなピークを持っており、電場電位応答が海馬 CA3 領野全体で良く同期していることを示しています(データなどの詳細は Hayashi & Ishizuka, 1995 を参照)。しかし、中央のピークを拡大すると、いずれの場合もピークが縦軸 (t = 0) から少しずれていることが分かります。これは海馬 CA3 領野のある場所で錐体細胞集団の同期した発火が始まり、それが周囲に伝搬していることを示しています。見積もった伝搬速度は約 0.1 m/s でした。

伝搬速度を 0.1 m/s とすると、錐体細胞集団の同期した発火が海馬 CA3 領野を横断面方向に歯状回側から海馬 CA1 側まで伝搬するのに要する時間は 10 ms 足らずということになります。厳密には、引き込みであってもカオスであっても、同期したバースト発火が CA3 領野のどこかで始まって周囲へ伝搬しているわけですが、この伝搬に要する時間は数 Hz 程度の入力に対する応答や自発バースト発火の周期に比べると十分短いので、ニューロン集団のバースト発火は“横断面”方向には海馬 CA3 領野全体で一様、すなわち同期していると考えてよいでしょう。

ところで、海馬の CA3“縦断面”スライスでも、ニューロン発火が伝搬することが報告されています[Miles et al., 1988]。その伝搬速度は約 0.15 m/s で、横断面方向の伝搬速度(約 0.1 m/s)とほぼ同じです。ニューロン活動が海馬の長軸方向(縦断面方向)に中隔側から側頭側まで伝搬するとすれば、それに要する時間は 100 ms 余りということになり、これは Lubenov & Siapas (2009) がトラックを走っているラットの海馬 CA1 領野から記録した中隔側から側頭側へのシータ波(興奮波)の伝搬とほぼ合っています。この長軸方向への伝搬に要する時間(100 ms 余り)はシータ波(約 10 Hz)の一周期に相当し、海馬の長軸方向にシータ波の一周期が乗ることになります。すなわち、シータ波の時間スケールから見ると、長軸方向には海馬の活動は一様だとは言えず、ニューロン集団の長軸方向への伝搬は無視できなくなります。

上で述べたように、海馬 CA3 領野が横断面方向全体で同期しているとすれば、同期したニューロン集団のサイズは海馬の長軸方向の長さの 1/10 程度ということになります。そのようなニューロン集団が入力に対してダイナミカルな応答をすることによって、入力情報が表現されたり、新しい情報が生成されたりしているのかもしれません。また、それらの応答が興奮波として長軸方向に伝搬し、たとえば背側海馬の情報が腹側海馬や両者の中間領域の情報と連携したり統合されたりしているのかもしれません。一方、海馬全体の活動を平均して見てしまうと、同期したニューロン集団のダイナミカルな性質を捉え難くなるだけでなく、海馬の機能を理解することも難しくなるかもしれません。

参考文献

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第6章 海馬CA3神経回路網モデル: リズム活動とカオス応答


第5章では、苔状線維からの入力に対して、海馬CA3スライスの錐体細胞集団が引き込みやカオス応答を起こすことを示しました。また、引き込みとカオス応答のいずれの場合も、海馬全体でニューロン活動が同期しているのではなく、興奮波が伝搬していることも示しました。この章では、リズム活動やカオス応答を海馬CA3神経回路網モデルで再現し、神経回路網の複雑な時空活動を見ることにしましょう。

ここで用いる海馬CA3神経回路網モデルは、256個の錐体細胞を 16×16 の格子点に置き、25個の抑制性介在ニューロンを等間隔に神経回路網全体に配置したものです(図6.1)。海馬CA3領野の抑制性介在ニューロンの数は錐体細胞の数の約10%であることが報告されていますので[Misgeld & Frotscher, 1986]、介在ニューロンの数を25個にしてあります。また、錐体細胞の数がこれより少なくなるとリズム活動の再現が難しくなりますので、必要最小限の大きさの海馬CA3神経回路網モデルということになります。


図6.1  海馬CA3神経回路網モデル。Δ:錐体細胞(256個)、○: 抑制性介在ニューロン(25個)。錐体細胞(▲)と介在ニューロン(●)の発火パターンは図6.4 (ii), (iii) に示されている。錐体細胞は周囲の8個の錐体細胞と双方向に興奮性に結合されている。介在ニューロンは周囲の16個の錐体細胞から興奮性の入力を受け、同じ16個の錐体細胞を抑制している。隣接する介在ニューロンは4個の錐体細胞を共通に抑制している。[Tateno et al., 1998 の図を改変


海馬CA3錐体細胞モデルとしては、19-コンパートメントモデル[Traub et al., 1991]や 2-コンパートメントモデル[Pinsky & Rinzel, 1994]が作られていますが、我々の海馬CA3錐体細胞モデルは樹状突起を持たないシングルコンパートメントモデルです[Tateno et al., 1998]。このモデルは Hodgkin-Huxley 型のコンダクタンスベースモデルで、実験で観測された海馬CA3錐体細胞の発火パターンとその分岐現象をよく再現します(図6.2)(モデルの詳細は Tateno et al., 1998 を参照)。

海馬CA3錐体細胞には “しきい値の低い” Ca2+電流が存在します[Brown & Griffith, 1983]。上記の19-コンパートメントモデルや2-コンパートメントモデルには含まれていませんが、我々のシングルコンパートメントモデルには含まれています。CA3錐体細胞が発火するとCa2+依存性K+電流が活性化されるので、膜電位は過分極しますが、この過分極電位から静止膜電位に戻る過程でしきい値の低いCa2+電流が活性化されます。その結果、CA3錐体細胞はNaスパイクのしきい値以上に脱分極され、再び発火します。すなわち、しきい値の低いCa2+電流は、CA3錐体細胞が自発的に繰り返し発火することを可能にしています。このとき、発火(Naスパイク)に続いて発生する “しきい値の高い” Ca2+スパイクによってゆっくりした後脱分極が生じますので、結果的にNaスパイクのバーストが生じ、バースト発火が繰り返されることになります。また、活性化されたCa2+電流によって細胞内のCa2+濃度が上昇しますので、Ca2+依存性K電流によって持続時間の長い過分極が生じ、長いバースト間隔が作られます。

換言すれば、バースト発火はNa電流とK電流による速い振動とCa2+電流とCa2+依存性K電流による遅い振動との相互作用によって生じていると考えることができます。この相互作用は脱分極の大きさに依存しますので、細胞体に直流電流を加えて脱分極すると、脱分極とともにバースト間隔が短くなり、カオス発火を経て周期発火に分岐します(図6.2a, b)。海馬CA3錐体細胞モデルの分岐図を詳しく見ると、細胞体に加えた直流電流の減少に伴って、周期1から周期倍分岐を繰り返してカオスに分岐していることが分かります(図6.3)。


図6.2  海馬CA3錐体細胞の自発発火。(a) ラットの海馬CA3錐体細胞から細胞内記録((i) 周期1、(ii) カオス、(iii) と(iv) 周期バースト発火)。細胞体に加えた直流電流は(i) 0.3, (ii) 0.2, (iii) 0.1, (iv) 0 nA。(b) 海馬CA3錐体細胞モデル((i) 周期1、(ii) 周期2、(iii) カオス、(iv) - (vi) 周期バースト発火)。細胞体に加えた直流電流は(i) 0.4, (ii) 0.3, (iii) 0.27, (iv) 0.2, (v) 0.1, (vi) 0 nA。[Tateno et al., 1998 から引用


図6.3  海馬CA3錐体細胞モデルの分岐図。横軸は細胞体に加えた直流電流。縦軸はスパイク間隔。直流電流 Iin を小さくしていくと、周期1の発火から周期倍分岐を繰り返してカオス発火に分岐し、さらにバースト発火に分岐する。[Tateno et al., 1998 から引用


抑制性介在ニューロンはNa、K、および漏れ電流だけを持つ fast-spiking タイプのモデルで、実験で観測されたニューロン活動 [Kawaguchi & Hama, 1987] を再現するようにパラメータが調整されています。また、興奮性および抑制性シナプス電流の時定数も、実験で観測されたシナプス電位 [Miles & Wang, 1986; Miles, 1990] を再現するように決められています。

海馬の錐体細胞に付いている興奮性シナプスには、NMDA受容体チャネルとAMPA受容体チャネルが存在することが知られています。NMDA受容体チャネルは、AMPA受容体チャネルによるEPSPの長期増強(LTP)をトリガーするCa2+電流を流し、シナプスの可塑的変化を起こすのに重要な役割を果たしています。一方、AMPA受容体チャネルによるEPSPは、錐体細胞のバースト発火を周囲に広げ、神経回路網の広い範囲でバースト発火の同期を促進するはたらきを持つと考えられています[Lee & Hablitz, 1989]。この章では、錐体細胞間の興奮性結合としてAMPA EPSPのみを考え、シナプス荷重の可塑的変化を考えないことにします(スパイクタイミングに依存したシナプス可塑性を持つCA3神経回路網モデルについては、後続の章で述べます)。

各錐体細胞は近傍の8個の錐体細胞と相互に興奮性に結合されており、ローカル結合になっています。各抑制性ニューロンは近傍の16個の錐体細胞から興奮性の入力を受け、同じ16個の錐体細胞を抑制しています。これらの抑制性ニューロンの抑制範囲は隣接した抑制性ニューロンの抑制範囲と部分的に重なっており、4個の錐体細胞を共通に抑制しています。

上記のように、自発的に発火する錐体細胞で海馬CA3神経回路網モデルが構成されていますので、錐体細胞の集団活動である時空活動が自発的に起きます。この神経回路網モデルを数値計算で解くと、個々のニューロンの発火パターンを得ることができます。しかし、実験で数百個以上のニューロンの発火パターンを同時に観測するのは容易でありません。そこで、実験結果と容易に比較できる量を神経回路網モデルの時空活動から求めることが必要になります。

第5章で示した実験では、個々の錐体細胞のスパイクではなく、電極を細胞外に置いて電場電位を記録しました。これは、電場電位がニューロンの集団活動を観測するのに適した簡便な方法だったからです。電場電位はニューロンから周囲に流れるシナプス電流などによって媒質に生じる電位ですから、神経回路網モデルのニューロン活動から電場電位を求めるには、ニューロンを取り囲む媒質のコンダクタンスの分布を知る必要があります。しかし、媒質のコンダクタンスの分布が時間とともに変化せず、主に抵抗成分から成るとすると、ニューロンの周囲に流れる電流は電場電位に比例することになります。この電流を電場電流として求めれば、実験結果と比較することができます。

本神経回路網モデルでは、電場電流は神経回路網の中央の16個の錐体細胞に生じるシナプス電流の和として定義されています。また、記録電極を神経回路網の中心に置いたと仮定し、錐体細胞が神経回路網の中心から遠くなるほど電場電流への寄与が小さくなるようにしています(詳細については Tateno et al. (1998) または 脳とカオス (2001) 4.4節 を参照)。この電場電流には活動電位に関わるNaとK電流は含まれていませんが、錐体細胞には周囲の錐体細胞や介在ニューロンからインパルスが入力されますので、高周波成分が含まれています。これらの高周波成分はカットオフ周波数 50 Hz のローパスフィルターで除かれています。


図6.4  海馬CA3神経回路網モデルの自発時空活動。(a) てんかん、(b) δリズム、(c) θリズム、(d) βリズム。(i) ラスター図。縦軸はニューロンに付けた番号。横軸は時間。(ii) 錐体細胞(図6.1 の ▲)の発火パターン。(iii) 抑制性介在ニューロン(図6.1の ●)の発火パターン。(iv) 電場電流。縦軸のスケールが異なることに注意。[Tateno et al., 1998 から引用


このようにして求めた電場電流は、興奮性と抑制性の結合の強さに依存して4種類のリズム活動を示します(図6.4 (iv) )。図6.4 (i) はニューロン発火のラスター表示で、各ニューロンの発火が小さなドットで表示されています。横軸は時間で、縦軸はニューロンに付けた番号です。正方形の神経回路網の一番上の行にある16個の錐体細胞の左端を1番、右端を16番とし、2行目左端を17番としています。以下同様に、256番まで錐体細胞に番号が付けられています。また、257~281番のニューロンは抑制性介在ニューロンです。これらのラスター図から、リズム活動に対応したニューロンの時空活動を見ることができます。図6.4 (ii)と(iii) はそれぞれ錐体細胞(図6.1の▲)と抑制性介在ニューロン(図6.1の●)の発火パターンです。

錐体細胞間の興奮性結合が弱い場合は、錐体細胞発火の同期は弱く(図6.4 d (i))、バースト発火もほとんど見られません(図6.4 d (ii))。これは、反回性抑制が相対的に強いため、しきい値の高いCa2+スパイクが起き難く、それに伴うNaスパイクのバーストも起き難くなるためです。また、細胞内Ca2+濃度があまり上昇しないので、Ca2+依存性K電流による過分極も小さく、長い無放電期間も起き難くなります。その結果、電場電流変化は小さく、その振動も明確でありません(図6.4 d (iv))。電場電流振動のパワースペクトルはブロードに広がりますが、15 Hz と 30 Hz に弱いピークを示しますので、βリズムに分類しています(詳しくは Tateno et al., 1998 を参照)。

錐体細胞間の興奮性結合を少し強くすると、明確な電場電流の振動が生じます(図6.4 c (iv))。この電場電流のパワースペクトルは 6 Hz にシャープなピークを示しますので、θリズムに分類されます。少し強くなった結合を通して入力を受けた錐体細胞は明確なバースト発火を起こし、Ca2+依存性K+電流によるバースト間隔も明確になっています(図6.4 c(ii))。このバースト間隔がθ周期を決める要因になっています。



Dbpf6章動画サムネイル.png

動画

図6.5  海馬CA3神経回路網モデルの自発時空活動(θリズム)(動画)。256個の は錐体細胞。 は錐体細胞の発火を表し、 は錐体細胞の静止状態を表している。興奮波の伝搬を見やすくするため、 から への時定数をスパイク幅より大きくし、また再生速度を遅くしてある。

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ここで注意すべきことは、ニューロン発火が神経回路網全体で同期していず、いろいろな方向に伝搬していることです(図6.4 c (i)、図6.5)。従来θリズムは空間的に同期していると考えられてきましたので、複雑な時空活動であるにも関わらずリズミックな電場電流振動が生じるのは驚きでした。一本の細胞外記録電極を使用する限り、スパイク伝搬の方向には関係なく、ある一定の周期で興奮波が電極を通過しさえすれば、リズム活動として観測されるのです。この結果は、少なくとも、ニューロン活動が空間的に同期していなくてもリズム活動を再現できることを示しています。さらに、ラットで観測されるθリズムの振幅のゆっくりした増減(waxing and waning)とよく似た、電場電流振動の振幅の増減も再現されています。これも空間的に一様でない複雑な興奮波の伝搬が原因で生じています。いろいろな方向に伝搬する興奮波のぶつかり合いにより、しばしば電場電流振動が崩れるためです。

もし神経回路網の広い範囲でニューロン活動が同期しているのであれば、てんかん脳波のような大振幅の振動になると考えられます。しかし、実際にラットで観測されるθリズムの振幅はそれほど大きくはありません。神経回路網の小さな領域でニューロン活動が同期し、それがいろいろな方向に伝搬することによって、リズム活動を維持しながら強い同期状態には陥らないようになっているのでしょう。このとき、Ca2+依存性K電流による深い過分極反応や介在ニューロン経由のリカレントな抑制が、興奮波のうしろに一時的な抑制帯を作ります。この抑制帯は、神経回路網全体で異常に高い興奮状態にならないようにするとともに、電極を通過する興奮波の周期を整えることにも貢献しているようです。

錐体細胞間の興奮性結合をさらに強くすると、3 Hz にピークが存在するδリズムが生じます(図6.4 b (iv))。電場電流振動の振幅はθリズムより大きくなり、振幅は不規則に変化しています。ラスター図を見ると、同期したいろいろなサイズのニューロン集団が、神経回路網のあちこちに生じていることが分かります(図6.4 b (i))。興奮性結合が強くなっているためニューロン活動が同期する傾向は強くなっていますが、それでも神経回路網全体で同期することはなく、興奮波は不規則に伝搬しています。δリズムの周波数がθリズムの周波数より低くなるのは、他の錐体細胞からの強い興奮性入力で錐体細胞がより激しくバースト発火するからです(図6.4 b (ii))。その結果、細胞内Ca2+濃度が大きく上昇し、大きなCa2+依存性K電流で深い過分極が起き、バースト間隔が長くなります。

錐体細胞間の興奮性結合を十分強くすると、神経回路網はてんかん状態になり、電場電位振動は 2 Hz で大振幅になります(図6.4 a (iv))。錐体細胞は激しいバースト発火を繰り返しますが(図6.4 a (ii))、それでも神経回路網全体で同期することはなく、興奮波の伝搬が生じています(図6.4 a (i))。

図6.4 b (iv) と c (iv) に示したδリズムとθリズムは不規則ですが、それでもかなり単純な振動のように見えるので、低次元カオスであることを期待したくなります。しかし、これらの振動から三次元位相空間で再構成したアトラクタは非常に複雑な幾何学構造をしており、決定論的カオスの性質を引き出すことは容易でありません(詳しくは 林「脳とカオス」4.4節を参照)。これは脳波のカオス的性質を明らかにすることが難しいという事情とよく似ています。多分、ニューロン活動の同期が悪く、リズム活動の力学的次元が十分低くなっていないからでしょう。


図6.6  自発リズム活動((a) てんかん、(b) δリズム、(c) θリズム、(d) βリズム)の周期刺激に対する応答。海馬CA3神経回路網モデル。横軸は刺激の周波数(T は刺激パルスの間隔)。縦軸は刺激の強さ。すべての錐体細胞に同期して刺激が加えられている。★はカオス応答。○、△、□ および ◇ はそれぞれ 1:1、1:2、1:3 および 1:4 引き込み。[Tateno et al., 1998 から引用


第5章で述べた実験と同様に、この神経回路網モデルに周期的シナプス入力を加えると、リズム活動の応答を見ることができます(図6.6)。カオス応答を起こすのはてんかんとδリズムで(図6.6 a, b)、1:1 引き込みはてんかんよりδリズムで起きやすくなります。また、用いた刺激の強さと周波数の範囲内では、θリズムはほとんどの場合 1:1 引き込みを起こします(図6.6 c)。これはニューロン活動の同期が弱くなるにつれて引き込みが起きやすくなることを示しています。自発リズムの自己主張が弱くなると、外部からの刺激に応じやすくなるからでしょう。βリズムの場合は、リズム活動が明確でなくなり、そのパワースペクトルはブロードで高周波成分を多く含むようになります。その結果、1:1 引き込みを起こす刺激パラメータの領域は逆に狭くなります。また、カオス応答も起きません(図6.6 d)。

図6.7はδリズムのカオス応答の例です。てんかん様リズムが起こすカオス応答もこれに良く似ています。ラスター図を見ると、刺激パルスにタイミングを合わせて錐体細胞はバースト発火していますが、すべての錐体細胞が同じバースト発火をしているわけではありません(図6.7 (i))。錐体細胞のバースト間隔やバースト内発火数は不規則に変動し、刺激パルスで発火しないこともあります(図6.7 (ii))。その結果、刺激パルスが加わる毎に、いろいろな大きさの同期した錐体細胞集団が神経回路網のあちこちに生じますので、電場電流は、同期して発火したニューロンの数や同期の程度を反映して、不規則に変化することになります(図6.7 (iii))。この不規則な電場電流を各刺激パルスから 60 ms 後にサンプルして求めた一次元写像は上に凸な関数となり、低次元カオスの特徴をよく表しています(図6.7 (iv))。


図6.7  δリズムの周期刺激に対するカオス応答。海馬CA3神経回路網モデル。(i) ラスター図。(ii) 錐体細胞(図6.1の▲)の発火パターン。(iii) 電場電流。電場電流の下のドットは刺激パルスを表す。(iv) 一次元写像。各刺激パルスから 60 ms 後に電場電流をサンプルして得られた時系列データから求めた。[Tateno et al., 1998 から引用


実は、この神経回路網モデルでは、すべての錐体細胞に同期して刺激パルスが加わっています。したがって、図6.7 (i) のラスター図に示されているように、ニューロン活動の伝搬はほとんど起きません。海馬CA3領野への苔状線維からの入力を模倣して、神経回路網モデルの一部に刺激パルスを加えると、実験で観測されたように、刺激が加わった領域で引き込みやカオス応答が生じ、それが周囲に伝搬すると考えられます。しかし、本海馬CA3神経回路網モデルの一部に刺激を加えても、刺激に依存した興奮波の伝搬はほとんど起きません。入力に依存した興奮波の伝搬が作られるには、興奮性シナプスのスパイクタイミングに依存した可塑性が必要になります。これについては後続の章で述べます。

参考文献

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  3. Lee W-L and Hablitz JJ (1989) Involvement of non-NMDA receptors in picrotoxin-induced epileptiform activity in the hippocampus. Neuroscience Letters 107: 129-134. Link
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  8. Tateno K, Hayashi H, and Ishizuka S. (1998) Complexity of spatiotemporal activity of a neural network model which depends on the degree of synchronization. Neural Networks 11: 985-1003.  Link
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  10. 林 初男 (2001) 「脳とカオス」 裳華房 Link



第7章 海馬CA3神経回路網モデル: STDPと興奮波の伝搬


第 6 章では、海馬CA3神経回路網モデルを用いて自発リズム活動を再現し、それらのリズム活動が周期刺激に対して引き込みやカオス応答を起こすことを示しました。また、自発的にリズム活動を起こしているとき、ニューロン活動が神経回路網全体で同期しているのではなく、興奮波が空間的に複雑に伝搬していることも示しました。しかし、シナプス結合強度が可塑的に変化しない神経回路網モデルでしたので、神経回路網の一部に刺激を加えても、そこから新たに興奮波が伝搬し始めることはありませんでした。局所刺激で起こされたニューロン活動がリカレント抑制や周囲の自発リズム活動に打ち勝って伝搬するためには、錐体細胞間の結合が刺激部位から周囲に向かって強化されることが必要だと考えられます。

スパイクタイミングに依存したシナプス可塑性(STDP)は、海馬 CA3 領野を含め、脳のいろいろな部位で明らかにされています[Levy and Steward, 1983; Magee and Johnston, 1997; Markram et al., 1997; Debanne et al., 1998; Bi and Poo, 1998; Nishiyama et al., 2000]。この可塑性を持つシナプス結合は、シナプス前細胞がシナプス後細胞より少し早く発火すると強められ、発火の順序が逆になると弱められる性質を持っています。STDP の性質を持つシナプスが存在する場合、局所刺激で起こしたニューロン発火が周囲のニューロンを発火させると、刺激部位から放射方向のシナプス結合は少し強められ、逆向きのシナプス結合は少し弱められることになります。この局所刺激を繰り返すと、刺激部位から放射方向に強められた興奮性結合の範囲が広がり、刺激部位の発火が遠くまで伝搬するようになると考えられます。


図7.1   2つの指数関数で近似した STDP 関数。シナプス前細胞のスパイクがシナプス後細胞のスパイクに先行(Δt < 0)すると、Ft) > 0 となりシナプス結合は強められ、スパイクタイミングが逆(Δt > 0)になると、Ft) < 0 となりシナプス結合は弱められる。[Yoshida and Hayashi, 2004 から引用


この章で用いる海馬CA3神経回路網モデルは、錐体細胞間の興奮性結合の強さが STDP によって変化する点を除くと、第 6 章で用いたモデルと同じです。図7.1に示す STDP ルールは Bi と Poo (1998) の実験結果を 2 つの指数関数で近似したもので、次のように表されます[Yoshida and Hayashi, 2004]。

<math>
   F(\Delta t)=
     \begin{cases}
       \ \ \ M \mbox{exp}(\Delta t/\tau) \qquad & \mbox{if} \ \ -T \le \Delta t <0\\
          -M \mbox{exp}(\Delta t/\tau) \qquad & \mbox{if} \quad 0 < \Delta t \le T  \qquad \qquad \qquad \mbox{(7.1)}\\
          \qquad 0 & \mbox{otherwise} 
     \end{cases}
 </math> 


Δt はシナプス前細胞と後細胞のスパイクタイミングで、次のように定義しています。

Δ t   = (シナプス前細胞のスパイク発生時刻)  -  (シナプス後細胞のスパイク発生時刻)   (7.2)


M, τ, および T は、それぞれ 0.05, 20 ms, および 100 msです。この STDP 関数 Ft) を用いて、錐体細胞間の興奮性シナプスコンダクタンス Cpp を次のように更新しています。

<math>
   C_{\mbox{pp}} \rightarrow C_{\mbox{pp}} + C_{\mbox{max}}\ F(\Delta t) 
   \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \mbox{(7.3)}
 </math> 


したがって、シナプス前細胞のスパイクがシナプス後細胞のスパイクに先行すると、Ft) > 0 となり、シナプスコンダクタンス Cpp は大きくなります。スパイクタイミングが逆になると、Ft) < 0 となり、Cpp は小さくなります。ただし、Cpp には上限と下限が設けてあり、Cpp > Cmax = 0.005 μS の場合は Cpp = CmaxCpp < Cmin = 0.0015 μS の場合は Cpp = Cmin となります。

まず、第 6 章で示した海馬 CA3 神経回路網モデルの自発時空活動が STDP によってどう変わるかを見ることにしましょう。シナプス前後のスパイクタイミングで興奮性シナプス結合の強度が変化しますので、複雑な時空活動を自発的に起こしている神経回路網では、各錐体細胞の発火は隣接する錐体細胞の発火に先行したり遅れたりします。その結果、時間とともに、結合強度は強められたり弱められたりします。

この様子を見るために、次のようにベクトル <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> を定義します[Yoshida and Hayashi, 2004]。

<math>
   \vec{V}_i = \sum_{j} \vec{v}_{ij}/C_{\mbox{max}}(1+\sqrt{2}) 
   \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \mbox{(7.4)}
 </math> 


ベクトル <math>\scriptstyle{\vec{v}_{ij}}</math> は、シナプスコンダクタンスに比例した長さを持つ、シナプス前細胞 j からシナプス後細胞 i に向いたベクトルです。これらのベクトルを細胞 i と結合している周囲の細胞 j について和をとり、Cmax (1+√2) で規格化したものが、ベクトル <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> です。このベクトル <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> は、周囲の細胞 j から細胞 i への結合でより強化された方向を向いており、それと反対の方向には、結合が弱められています。もし周囲の細胞からのシナプス結合強度が空間的に対称であれば、<math>\scriptstyle{\sum_{j} \vec{v}_{ij} = \ 0 \ }</math> となりますので、<math>\scriptstyle{\vec{V}_i \ = \ 0}</math> となります。


図7.2   錐体細胞間の興奮性シナプス結合強度 Cpp が STDP によって変化する海馬 CA3 神経回路網モデルの自発活動。(a) 初期状態から 40 秒後のベクトル <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> の空間分布。● は錐体細胞。錐体細胞 ii = 1 ~ 256)から伸びる棒は、ベクトル <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> を表しており、錐体細胞 i へのシナプス結合が強められた方向を示している。(b) 初期状態から 40 秒後の Cpp の分布。Cpp の初期値は (i) 0.0025, (ii) 0.0033、および (iii) 0.0040 μS。時間とともに、Cpp は最大値と最小値の二つのグループに分かれる。(c) 神経回路網全体で平均した興奮性結合強度 CppCpp の初期値は 0.005、0.004、0.0033、0.0025、および 0.0015 μS。Cpp は20 秒以降 STDP ルールに従って変化。初期値に関わらず、Cpp の平均値は 0.0033 μS に収束する。(d) 神経回路網の 5 ヵ所で求めた電場電流の平均周波数と標準偏差。10、40、および 70 秒のグループは、それぞれ 17 秒間(3-20、33-50、および 63-80 秒)の電場電流振動から求めた周波数。各グループの 3 つの棒グラフは、左から Cpp の初期値が 0.0025、0.0033、および 0.0040 μS の場合の周波数を表す。Cpp は 20 秒以降 STDP ルールに従って変化。Cpp の初期値に関わらず、電場電流の周波数は約 7 Hz に収束する。(e) 神経回路網の中心に記録電極があるとして求めた電場電流(シータリズム)。(i) Cpp が STDP によって変化する前。(ii) Cpp が STDP によって変化しているとき。[Yoshida and Hayashi, 2004 の図を改変



図7.3 050905 時空活動 CA3 STDP 圧縮 075 サムネイル.png

動画

図7.3   シナプス結合強度が STDP ルールに従って変化する海馬 CA3 神経回路網モデルの自発時空活動(動画)。 は錐体細胞。 は錐体細胞の発火を表し、 は錐体細胞の静止状態を表している。興奮波の伝搬を見やすくするため、 から への時定数をスパイク幅より大きくし、また再生速度を遅くしてある。錐体細胞 ii = 1 ~ 256)から伸びる黄色の棒はベクトル <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> を表す。周囲の錐体細胞 j から錐体細胞 i への興奮性結合強度が時間とともに偏り、ベクトル <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> がいろいろな方向に伸びてくるのが分かる。

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ここでは、錐体細胞間の興奮性結合強度の初期値をすべて Cpp = 0.0033 μS とし、神経回路網にシータリズムを起こさせておきます。この初期状態では結合強度はすべて同じですから、神経回路網のエッジを除き、近傍の錐体細胞 j から各錐体細胞 i への結合強度は空間的に対称(<math>\scriptstyle{\vec{V}_i} \ = \ 0</math>)です。

興奮性結合強度 Cpp が固定されている場合は、時間が経っても常に <math>\scriptstyle{\vec{V}_i \ = \ 0}</math> であり、第 6 章で示したように、神経回路網は複雑な時空活動を起こします(図6.5)。初期状態から Cpp を STDP ルールに従って変化させると、図7.2(a)図7.3(動画)に示すように、各錐体細胞からいろいろな方向に異なる長さのベクトル <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> が伸びてきますので、結合の強さがいろいろな方向に偏っていくことが分かります。錐体細胞間の興奮性シナプス結合が STDP によって変化するので、複雑な時空活動によって強められるシナプス結合と弱められるシナプス結合が出てくるのです。その結果、周囲の錐体細胞 j から錐体細胞 i へのシナプス結合強度 Cpp は空間的に非対称になり、神経回路網全体でも Cpp の分布は一様でなくなります。

STDP ルールに従うシナプス結合の強さが複雑な時空活動で変化すると、興奮性結合 Cpp の空間分布は一様でなくなりますが、Cpp の値は最大と最小の2つのグループに分かれ、中間の強さの結合は非常に少なくなります(図7.2(b))。また、Cpp の初期値に関係なく、Cpp の値はこの二峰性の分布に収束します。これは、STDP 関数が原点に対して対称であり、また錐体細胞間が双方向に結合されたリカレントネットワークであるからです。つまり、スパイクタイミングに依存して錐体細胞 j から錐体細胞 i への結合が強められれば、その逆方向の結合は同じスパイクタイミングで弱められ、平均 Cpp は常に 0.0033 μS に収束します(図7.2(c))。複雑な自発時空活動によって時々刻々結合強度が強められたり弱められたりしているにも関わらず、平均のシナプス結合強度は不変で、常に強化された結合と弱められた結合がバランスしているのです。その結果、シータリズムの周波数は約 7 Hz に収束し(図7.2(d))、自発リズム活動も STDP によって調整され維持されていることが分かります。

時空活動の複雑さは、シナプス結合強度が固定された神経回路網(図6.5(動画))と STDP で変化する神経回路網(図7.3(動画))でほとんど変わりません。また、電場電流リズム(シータリズム)も両者でほとんど変わりません(図7.2(e))。STDPルールに従うシナプス結合強度が複雑な時空活動で変化しても、時空活動やシータリズム自体には大きな影響を与えていないことが分かります。


図7.4   局所刺激によって強化された錐体細胞間の興奮性結合強度 Cpp の放射状パターン。Cpp が STDP によって変化する海馬 CA3 神経回路網モデル。自発リズム活動はシータリズム(約 7 Hz)。(a) 刺激を加える前の <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> の空間分布。図7.2(a) と同じもの。(b) 四角で囲まれた 4 個のニューロンに同期したバースト刺激(8 Hz)を加えて 160 秒後の <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> の空間分布。刺激を加えた領域から放射方向に、興奮性結合 Cpp が強化されているのが分かる。刺激のバースト内パルス数は 3、パルス間隔は 10 ms、バースト間隔は 125 ms。(c) 四角で囲まれた 4 個のニューロンに同期したバースト刺激(5 Hz)を加えて 160 秒後の <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> の空間分布。この刺激では <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> の空間分布に与える影響は小さく、刺激部位から放射方向への Cpp の強化はできていない。刺激のバースト内パルス数は 3、パルス間隔は 10 ms、バースト間隔は 200 ms。[Yoshida and Hayashi, 2004 の図を改変


興奮性結合強度が STDP ルールに従って変化する海馬 CA3 神経回路網モデルで複雑な興奮波の伝搬が起きているとき、神経回路網の任意の局所領域(たとえば、図7.4 の四角で囲まれた 4 個のニューロン)を本神経回路網モデルが起こすシータリズムの周波数(約 7 Hz)より少し高い周波数でバースト刺激すると、刺激した領域から放射方向にかなり遠くまで興奮性結合が強められ、逆方向には弱められます(図7.4(b))。その結果、刺激部位から波紋が広がるように、放射方向に興奮波が繰り返し伝搬するようになります(図7.5(動画))。この興奮波の放射状伝搬は刺激を止めた後もしばらく繰り返し、次第に消えていきます。バースト刺激の周波数がシータリズムの周波数より低いと、刺激部位から放射方向に興奮性結合が強められることはなく(図7.4(c))、興奮波の放射状伝搬も起きません。



図7.5 050902 放射状伝播 刺激→自発 圧縮 100 サムネイル.png

動画

図7.5   局所刺激によって形成される興奮波の放射状伝搬(動画)。錐体細胞間の興奮性結合強度 Cpp が STDP によって変化する海馬 CA3 神経回路網モデル。自発リズム活動はシータリズム(約 7 Hz)。図7.4 と同じ 4 個のニューロンに同期したバースト刺激(8 Hz)を加えた。刺激部位から興奮波の放射状伝搬が生じている。 は錐体細胞。 は錐体細胞の発火を表し、 は錐体細胞の静止状態を表している。興奮波の伝搬を見やすくするため、 から への時定数をスパイク幅より大きくし、また再生速度を遅くしてある。錐体細胞 ii = 1 ~ 256)から伸びる黄色の棒は、ベクトル <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> を表す。動画が始まって約 9 秒後に、バースト刺激が止められている。刺激を止めても興奮波の放射状伝搬が繰り返されている点に注意。

(動画ファイルです。リンクをクリックして下さい)


図7.6   刺激部位から放射方向に興奮性結合がどの程度強化されたかを示す指標 Drad の定義(式7.5 を参照)。<math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> は式(7.4) で定義したベクトル。 <math>\scriptstyle{\vec{I}_i}</math> はバースト刺激を加えた局所領域の中心から錐体細胞 i に向いた単位ベクトル。n は円内のニューロン数。放射状に強化された Cpp のパターンを評価するのに適当な半径の円を用いた。[Yoshida and Hayashi, 2004 の図を改変


ここで、刺激部位から放射方向に興奮性結合がどの程度強化されたかを示す指標として、Drad を以下のように定義します(図7.6を参照)[Yoshida and Hayashi, 2004]。

<math>
   D_{rad}=\frac{\sum_{i=1}^n (\vec{V}_i \centerdot \vec{I}_i)}{n}
   \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \mbox{(7.5)}
 </math>


<math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> は式(7.4)で定義したベクトルです。 <math>\scriptstyle{\vec{I}_i}</math> はバースト刺激を加えた局所領域の中心から錐体細胞 i に向いた単位ベクトルです。n は、図7.6 に示すような、刺激部位を中心とする適当な半径の円内のニューロン数を表します。円内のすべてのニューロンで <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> と <math>\scriptstyle{\vec{I}_i}</math> の向きが同じであれば、Drad は最大になり、強化された Cpp の方向はすべて放射方向ということになります。 <math>\scriptstyle{\vec{V}_i}</math> と <math>\scriptstyle{\vec{I}_i}</math> の向きが異なるほど Drad は小さくなり、強化された Cpp のパターンは放射状ではなくなります。つまり、Drad が大きければ興奮波の放射状伝搬は明確になり、Drad が 0 に近づくと興奮波の放射状伝搬は消えていきます。

海馬 CA3 神経回路網モデルの異なる 9ヵ所を 8 Hz または 5 Hz で刺激して求めた Drad の平均値と標準偏差が、図7.7(a) と (b) に示されています。これらのシミュレーションの初期条件は、すべての場合で同じにしてあります。神経回路網の局所領域を 8 Hz でバースト刺激すると、Drad は急速に増加し(図7.7(a))、刺激部位から放射方向に強化された Cpp のパターンが形成されるのが分かります。これに伴って、興奮波が刺激部位から放射方向に伝搬するようになります。一方、5 Hz でバースト刺激すると、Drad はゆっくりと減少して 0 に近づきますので(図7.7(a))、放射方向に強化された Cpp のパターンはほとんど形成されません。したがって、刺激部位からの興奮波の放射状伝搬も起きません。



図7.7   DradCpp の時間変化。錐体細胞間の興奮性結合強度 Cpp が STDP によって変化する海馬 CA3 神経回路網モデル。自発リズム活動はシータリズム(約 7 Hz)。(a) Drad の時間変化。神経回路網モデルの異なる 9 ヵ所で求めた Drad の平均。縦棒は標準偏差を表す。0 から 20 秒までは、すべての Cpp を初期値 0.0033 μS に固定。20 秒から 40 秒までは、STDP ルールに従って Cpp を変化させた。40 秒から Cpp の変化を一旦止め、60 秒から再び STDP ルールに従って Cpp を変化させた。バースト刺激は 60 秒から 200 秒まで加えた。8 Hz のバースト刺激を加えると、Drad は急速に増加し、刺激部位から放射方向に Cpp が強化されたことが分かる。その結果、興奮波の放射状伝搬が 8 Hz で繰り返される。5 Hz のバースト刺激を加えると、Drad はむしろ減少し、放射方向への Cpp の強化は起きない。(b) 刺激を止めた後の Drad の時間変化。刺激を止めた 200 秒以降も Cpp は STDP ルールに従って変化するので、8 Hz バースト刺激で増加した Drad は次第に減少し、50 秒程度で刺激を加える前の値に戻る。興奮波の放射状伝搬の繰り返しは、刺激を止めた後 20 秒程度続く。(c) 平均 Cpp の時間変化。神経回路網全体で平均した Cpp の時間変化を 18 回の試行についてそれぞれ求め、それらの平均と標準偏差を求めた。標準偏差が非常に小さい点に注意。興奮波の放射状伝搬が起きているかどうかに関わりなく、平均 Cpp は不変であることが分かる。[Yoshida and Hayashi, 2004 から引用


8 Hz のバースト刺激を止めると、図7.7(b)に示すように、Drad は減少します。それに伴って興奮波の放射状伝搬も次第に消えていきますが、刺激を止めた後も放射状伝搬は 20 秒程度シータ周期で繰り返します。これは、刺激で生じたシナプスの可塑的変化(強化された Cpp の放射状パターン)がしばらく維持されるからです。これを短期の記憶状態と考えると、記憶状態を反映した興奮波のダイナミカルな伝搬が繰り返し生じていることになります。

このような局所刺激による興奮波の放射状伝搬のあるなしに関わらず、神経回路網全体で平均した Cpp は常に一定です(図7.7(c))。興奮性結合がある秩序を持った空間パターンで強められても、その一方で弱められるものもあり、神経回路網全体の平均結合強度は不変なのです。これは、STDP が神経回路網全体の興奮レベルの恒常性にも寄与できることを示しています。つまり、興奮性結合の強化だけを伴う記憶の蓄積で神経回路網を過剰な興奮状態に陥らせないように、STDP が神経回路網の興奮レベルを調整する安全弁にもなっていると考えることができます。

海馬 CA3 領野には興奮性のリカレント結合が豊富に存在しますので[Li et al., 1994]、海馬はそれらの可塑的変化によって記憶を蓄える associative memory system だと考えられてきました[Marr, 1971; McNaughton and Morris, 1987; Treves and Rolls, 1994]。最近では、これらのシナプスは STDP によって可塑的に変化することが分かっていますので[Debanne et al., 1998; Bi and Poo, 1998]、STDP の役割は associative memory の枠組みで時系列情報をリカレントネットに埋め込む仕組みだと考えられるようになりました。しかし、海馬 CA3 領野は自発活動を起こしやすいところとしても知られていますので[Buzsáki, 2002; Strata, 1998; Wu et al., 2002]、STDP に従うリカレント結合の強さは海馬 CA3 領野の自発活動(各錐体細胞の自発スパイク活動)によって次第に変化すると考えられます。すなわち、リカレント結合に蓄えられた associative memory pattern は、自発活動によって次第に壊されてしまう可能性があります。短期の記憶で構わないとしても、そのような記憶パターンに基づく神経活動を背景の自発活動(雑音)と区別する機構などはまだよく分かっていません。本章では、STDP ルールに従うリカレントな神経回路網モデルを局所刺激することによって、刺激部位から秩序ある興奮波の伝搬が生じることを示しました。この興奮波の伝搬は、局所刺激によって作られた興奮性結合強度の組織化されたパターンに基づいて生じたもので、背景にある自発活動とははっきりと区別された神経活動だと考えることができます。ただし、この STDP による結合強度の可塑的変化は、時系列情報自体をリカレントネットに埋め込む仕組みと言うよりは、局所領域に入力が加わったときに興奮波の伝搬(シータ進行波)を起こす仕組みになっていると言えます。実際、トラックを走るラットの海馬 CA1 領野で観測されるシータ進行波は中隔側から側頭側に伝搬しており、その原因の一つとして CA3 領野でのシータ進行波の伝搬が考えられています[Lubenov and Siapas, 2009]。そうであれば、空間情報に関わる嗅内皮質(EC)や歯状回(DG)からの入力によって海馬 CA3 領野でシータリズムの伝搬が引き起こされていると考えるのが自然ではないかと思います。さらに、EC から海馬 CA1 領野へ入力された時系列情報が、海馬 CA3 領野から海馬 CA1 領野に投射された伝搬するシータ進行波の位相に圧縮コードされるのではないかという想像は魅力的です。ただし、その機構はまだ良くわかっていません。

本章で示した海馬 CA3 神経回路網モデルを海馬 CA3 領野のように細長くし、その短辺の一方を刺激すると、Lubenov と Siapas (2009) の実験結果のように、長辺方向に興奮波を進行させることは可能です。しかし、実際にシミュレーションを行ってみると、必ずしも長辺方向へのきれいな進行波になるわけではありません。実験が示すような安定な一方向伝搬を起こすには、抑制性結合の異方的な広がりなども考慮する必要があるようです。これについては Samura and Hayashi (2012) を参照してください。

参考文献

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(Sep. 26, 2013)



第8章 新皮質第一次体性感覚野のカオス応答


第5章で海馬CA3領野のカオス応答について述べた後、第6章と第7章では海馬CA3領野におけるニューロンの集団活動である興奮波の伝搬について述べましたので、脳のカオスという観点からは少し脇道に逸れてしまいました。話を脳のカオスに戻して最後の章としましょう。

第5章では、ラットの海馬スライスを用いて、苔状線維刺激に対する海馬CA3領野のカオス応答について述べました。脳から切り出した海馬のスライスを用いましたので、実験系を単純にできたという利点はありましたが、脳の中に自然な状態で存在している海馬というわけではありませんでした。ここでは、麻酔をかけたラットの脳でもカオス応答が観測されることを示します。実験にはラットの新皮質第一次体性感覚野を用いました。

末梢の感覚受容器から脳への経路は、延髄を通ったあと内側毛帯を形成し、視床で中継されて新皮質第一次体性感覚野に達します。内側毛帯はいろいろな感覚受容器からの求心性線維が集まって視床に向かうところです。これを電気刺激すると、視床を経由して第一次体性感覚野にインパルスを送ることができます。このとき、興奮する求心性線維の数は電気刺激の強さに依存して増えますので、電気刺激の強さで視床の視床皮質ニューロンに同時に入力されるインパルスの数を変えることができます。強い内側毛帯刺激で多くの線維が興奮することは、末梢で多くの感覚受容器が同時に興奮することに相当します。また、末梢の感覚受容器が刺激されると、それによって周期的なインパルス列(数Hz~数十Hz)が末梢神経に生じます。したがって、内側毛帯を周期刺激して第一次体性感覚野の表面から電場電位応答を記録すれば、感覚信号を模擬した刺激に対する第一次体性感覚野の応答を調べることができます。記録した電場電位応答からローパスフィルタ(カットオフ周波数50 Hz)で高周波成分を除いたものを解析の対象としました。

第一次体性感覚野の電場電位応答は麻酔の深さに影響されますので、実験中は麻酔の深さをほぼ一定に保つ必要があります。そこで、(1)内側毛帯を1回刺激してスピンドル波が生じること(図8.1(a))と(2)第一次体性感覚野で自発的に小振幅のδリズムが生じていること(図8.1(b))の二つを麻酔の深さの指標として用いました。


図8.1   ラットの第一次体性感覚野表面から記録したスピンドル波とδリズム。(a) 内側毛帯を1回刺激して生じたスピンドル波。各トレースは20回の記録を平均したもの。スピンドル波の周波数は約10 Hz。内側毛帯刺激に用いた電流パルスの振幅は、トレース上:0.11、トレース中:0.15、トレース下:0.25 mA。(b) 自発的に生じたδリズムのパワースペクトル。内側毛帯刺激は加えていない。30秒間の電場電位リズムを用いてパワースペクトルを求め、5回平均した。ピークの周波数fo は 3.3 Hz。[Ishizuka and Hayashi, 1996から改変]


内側毛帯を1回刺激して新皮質第一次体性感覚野の表面から記録した電場電位応答は、小さな正の電場電位応答とそれに続く大きな負の電場電位応答から成っています(図8.2)。正の電場電位応答は、内側毛帯刺激によって生じた視床から皮質への入力によって皮質深層の錐体細胞に生じた興奮性シナプス活動を反映しており、負の電場電位応答は、皮質深層の活動に続く皮質浅層における錐体細胞間のリカレントな興奮性シナプス活動を主に反映していると考えられています[Morin and Steriade, 1981; Sasaki et al., 1970]。内側毛帯刺激で生じる負の電場電位応答の平均振幅は、図8.2に示すように、内側毛帯刺激のパルス電流を大きくすると単調に大きくなります。しかし、刺激のたびに振幅は変動しますので、インパルス列として伝えられる周期信号に対する第一次体性感覚野浅層のシナプス活動は単純ではありません。


図8.2   内側毛帯刺激に対するラット第一次体性感覚野の電場電位応答。内側毛帯を1回刺激すると、まず小さな正の電場電位応答が生じ、次に大きな負の電場電位応答が生じる。内側毛帯刺激に用いたパルス電流の振幅は、0.11、0.13、0.15、0.2、0.25および0.3 mA。同じ強さの刺激に対する電場電位応答を20回平均した。平均した負の電場電位応答は、刺激の強さに依存して単調に大きくなる。図8.1(a) のスピンドル波は、これらの応答より遅れて生じる。[Ishizuka and Hayashi, 1996から改変]


内側毛帯刺激によって視床-皮質回路に生じるスピンドル波(図8.1(a))は、第一次体性感覚野の正と負の電場電位応答(図8.2)に遅れて生じます。したがって、内側毛帯を周期的に刺激すると、内側毛帯からの入力とスピンドル波が干渉することになります。このようにスピンドル波が生じているときは、視床の視床皮質ニューロンは視床網様体ニューロンからの抑制によって過分極されていますので、内側毛帯周期刺激に対する視床皮質ニューロンの応答性は低く、結果的に第一次体性感覚野の応答性も低くなります[Glenn and Steriade, 1982]。しかし、内側毛帯を周期的に刺激し続けると、視床皮質ニューロンに生じたEPSPsは時間的に加重し、視床網様体ニューロンからのIPSPsに打ち勝って視床皮質ニューロンを脱分極します。その結果、スピンドル波は消え、内側毛帯からの周期信号は視床を経由して第一次体性感覚野に効率よく伝えられるようになります[Jahnsen and Llinas, 1984; McCormik and Pape, 1990; Lopes da Silva, 1991]。このような視床皮質ニューロンの振舞いは、皮質へ向かう感覚信号に対するゲート機能と呼ばれています。視床を経由した内側毛帯からの周期信号は第一次体性感覚野のδリズムと相互作用し、下記のような引き込みやカオス応答を第一次体性感覚野に起こします。


図8.3   内側毛帯刺激に対する第一次体性感覚野の電場電位応答の相図。IIth は、それぞれ刺激に用いたパルス電流と負の電場電位応答を起こすパルス電流のしきい値。fifo は、それぞれ刺激周波数(パルス間隔の逆数)とδリズムの周波数。○、△、□、▽、◎ の領域で、それぞれ1:1、1:2、1:3、2:2、2:4引き込みが生じ、●、▲、■、★の領域でカオス応答が生じる。[Ishizuka and Hayashi, 1996から改変]


内側毛帯刺激に用いたパルス電流の振幅と周波数をパラメータとした第一次体性感覚野の電場電位応答の相図が図8.3に示されています。パルス電流の振幅 I は負の電場電位を起こすしきい値電流 Ith で規格化されており、周波数 fi は第一次体性感覚野に自発的に生じるδリズムの周波数 fo で規格化されています。周波数 fo は実験ごとに多少異なりますので、刺激開始直前の20秒間の電場電位記録からパワースペクトルを求め、規格化に用いる周波数 fo を決めました。白抜きの記号(○、△、□、▽、◎)の領域は、それぞれ1:1、1:2、1:3、2:2、2:4引き込みが生じた領域で、黒塗りの記号(★、●、▲、■)の領域はカオス応答が生じた領域です。★の応答は、一次元写像が上に凸な関数になる典型的なカオス応答です。●、▲、■の応答は、それぞれ隣接する2つの引き込み応答が不規則に混ざった応答のように見えますが、一次元写像を求めるとそれらの不規則応答はカオスの性質を持っていることが分かります(詳しくはIshizuka and Hayashi, 1996を参照)。


図8.4   内側毛帯刺激に対する第一次体性感覚野の引き込みとカオス応答。(a) 1:1引き込み。fi/fo = 1.43、I/Ith = 1.87。(b) 1:2引き込み。fi/fo = 2.86、I/Ith = 1.87。(c) カオス。図8.3の★の領域で観測されたカオス応答。fi/fo = 3.37、I/Ith = 3.18。(i) 上のトレースは電場電位応答。下のトレースは内側毛帯を刺激したパルス電流。(ii) 二次元平面(V, dV/dt)で再構成したアトラクタ。(iii) 一次元写像。各刺激パルスからTs(= 14 ms)後に電場電位応答をサンプルし、得られた電場電位の時系列から一次元写像を求めた。[Ishizuka and Hayashi, 1996から改変]


1:1引き込みの場合は、内側毛帯を刺激するたびに電場電位応答が生じており(図8.4(ai))、軌道は一つのループを作っています(図8.4(aii))。各刺激パルスからTs(= 14 ms)後に電場電位応答をサンプルして得られた電場電位の時系列から一次元写像を求めると、電場電位は対角線上に一つのクラスタを作り、1:1引き込みであることが分かります(図8.4(aiii))。1:2引き込みの場合は、内側毛帯を2回刺激するたびに明確な電場電位応答が生じており(図8.4(bi))、それらの間で生じる小さな反応を除けば、軌道は一つの大きなループを作っています(図8.4(bii))。刺激の周期(Ts = 14 ms)でサンプルした電場電位は大、小、大、小、…と繰り返しますので、一次元写像は対角線に対して対称な2つのクラスタから成り、1:2引き込みであることを示しています(図8.4(biii))。

カオス応答(図8.3の★の領域)の場合は、周期的内側毛帯刺激に対して電場電位が不規則に応答しており(図8.4(ci))、軌道が埋め尽くした領域はストレンジアトラクタの概形を表しています(図8.4(cii))。刺激の周期(Ts = 14 ms)で電場電位応答をサンプルして一次元写像を求めると、上に凸な関数となり、カオスであることを明確に示しています(図8.4(ciii))。また、サンプルした電場電位を二次元平面(V, dV/dt)にプロットすると、このストレンジアトラクタの断面を得ることができ、その Ts 依存性を調べるとアトラクタの引き伸ばし(図8.5(a)-(d))と折れ畳み(図8.5(f)-(i))が生じていることが分かります。このアトラクタの引き伸ばしと折れ畳みもカオスであることを明確に示しています。


図8.5   ストレンジアトラクタの断面。各刺激パルスからTs後に電場電位応答をサンプルして二次元平面(V, dV/dt)にプロットした。★の領域のカオス応答。fi/fo = 3.37、I/Ith = 3.18。点線は図8.4(cii) のストレンジアトラクタの概形を示している。Ts(a) 8, (b) 9, (c) 11, (d) 14, (e) 17, (f) 20, (g) 23, (h) 24, (i) 26 ms。断面が引き伸ばされ(a-d)、次に折れ畳まれている(f-i)ことが分かる。(j) 刺激の位置を合わせて、連続する電場電位応答を50回重ね描きしたもの。[Ishizuka and Hayashi, 1996から改変]


電場電位を記録するために第一次体性感覚野の表面に接触させた電極は1本ですので、体性感覚野浅層の同期したニューロン集団の空間的な広がりについてはよくわかりません。しかし、第一次体性感覚野表面から記録した電場電位の振幅は第5章で示した海馬CA3領野から記録した電場電位応答の振幅と同程度ですので、電極周辺の比較的小さなニューロン集団が同期して応答しているのではないかと考えられます。

以上示したように、麻酔をかけたラットの脳でも明確なカオス応答が観測されます。したがって、脳のダイナミカルな振舞いに関しても、決定論的な非線形力学で理解できる範囲が格段に広がったと考えられます。

参考文献

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(Oct. 2, 2014)



第9章 おわりに


イソアワモチ巨大ニューロンの周期刺激に対するカオス応答が明らかにされた後[Hayashi et al., 1982]、イソアワモチペースメーカーニューロン[Hayashi et al., 1983, 1985, 1986]やイカ巨大軸索[Matsumoto et al., 1984]の周期刺激に対するカオス応答も明らかにされ、ニューロカオスの研究が一気に進みました。その後、ニューロンが自発的にカオス活動を起こすことが多くのニューロンモデルで示され[e.g. Chay, 1985; Kaas-Petersen, 1987; Canavier et al., 1990]、イソアワモチペースメーカーニューロンを用いた実験でも自発カオス活動が明らかにされています[Hayashi and Ishizuka, 1992]。もちろん、ニューロカオスの性質をアトラクタの幾何学構造や一次元写像によって明らかにしただけでなく、周期刺激電流の強さや周波数あるいは直流刺激電流による脱分極や過分極に依存して、いろいろな周期発火やカオス発火に分岐することも明らかにされています。これらの研究成果は、非線形なシステムであるニューロンの多様で複雑な振舞いを理解するのに重要な役割を果たしたと思います。

ニューロカオスが明らかになると、脳の複雑な活動も決定論的非線形力学の観点から明らかにできるのではないかと考えられるようになりました。脳では、ニューロンが互いに結合され相互作用していますので、ニューロン活動はニューロン集団としての活動に束ねられていきます。そのような脳の非線形力学的な性質を明らかにしようとする場合、ニューロンの同期した集団活動を見ることが大事になります。しかし、脳の広い範囲で同期した状態は、たとえばてんかんのように、脳としてはかなり異常な状態だと考えられます。脳機能と密接に関係した脳波にみられるリズム活動の振幅がてんかん脳波の振幅よりずっと小さいことからも分かるように、通常の脳活動では、ニューロン活動の同期はかなり局所的だと考えられます。換言すれば、同期しているとはいえ、脳活動の力学的自由度(次元)は低次元カオスの性質が露わになるほどには低くなっていないと考えられます。実際、頭皮上から記録した脳波を解析して脳活動のカオス的性質を明らかにすることは容易でありません。このような観点からは、脳の局所領域のニューロン集団の活動を調べるのが良いと考えられます。そのような観測に適した方法の一つは、細胞外記録電極で局所電場電位を記録する方法です。

第5章で述べたように、海馬横断面スライスのCA3領野は同期したバースト発火を起こします。それを反映した電場電位変化の下降相は錐体細胞の同期した過分極によるもので、電場電位変化の谷(無放電期間)は相対不応期のような役割を果たします。すなわち、錐体細胞が同期して過分極したとき、シナプス入力によって発火する細胞の数は減少し、各錐体細胞の活動電位の振幅と潜時もばらつきます。その結果、電場電位応答の振幅が変動します。この不規則な電場電位応答はカオスの性質を明確に示します[Hayashi and Ishizuka, 1995]。また、第8章で述べたように、麻酔をかけたラットの第一次体性感覚野でも、内側毛帯刺激に対する不規則な電場電位応答はカオスの性質を明確に示します[Ishizuka and Hayashi, 1996]。

ニューロンや脳のカオス活動と脳機能との関係は未だによく分かっていません。しかし、ニューロンや脳のカオス活動の発見は、予測可能な周期活動だけでなく、複雑で予測不可能な非周期活動も決定論的な非線形力学の枠組みで理解できることを示したわけで、ニューロンや脳のダイナミカルな性質に関する研究に大きな広がりを与えました。見方を変えれば、ニューロンや小さなニューロン集団など、適切なサイズのニューラルシステムを単位として脳を決定論的非線形力学方程式で表せば、多くの脳活動を再現できる脳モデルを用いて脳の情報処理機構を探求することが可能になったと考えることもできるでしょう。

海馬CA3領野のような神経回路網の活動を広域で見るときに注意すべきことは、小さなニューロン集団の同期したバースト発火が伝搬していることです。シナプス入力を受けたときは、局所領域のニューロン集団が同期して引き込みやカオス応答を起こし、それが周囲に伝搬していると考えられます。同期した小さなニューロン集団の発火が伝搬するような仕組みにすることによって、情報を神経回路網全体に行き渡らせるとともに、異常なてんかん状態(広範囲での強い同期状態)に陥るのを避けているのかもしれません。

第5章で用いた海馬CA3横断面スライス[Hayashi and Ishizuka, 1995]だけでなく、海馬CA3縦断面スライス[Miles et al., 1988]でも興奮波の伝搬が観測されています。また、AMPA受容体チャネルをブロックすると海馬CA3領野のリズム活動がほとんど消えることが報告されており[Wu et al., 2002]、興奮性リカレント結合がリズム生成に重要であることも示唆されています。また、第6章と第7章では、海馬CA3神経回路網モデルを用いて、興奮波が神経回路網を複雑に伝搬すること[Tateno et al., 1998]や、リカレント結合がSTDP学習則に従う場合は、周期刺激が加わった局所領域から組織化された興奮波の伝搬が生じること[Yoshida and Hayashi, 2004]を示しました。これらの研究が行われていた当時、海馬CA3領野のようなリカレントネットワークは連想記憶に適していると考えられており、興奮波の伝搬はあまり注目されていませんでした。しかし、Lubenov と Siapas(2009)によって、トラックを走るラットの海馬CA1領野でシータリズムが海馬の長軸方向に伝搬していることが明らかにされました。それまで空間的に同期していると考えられていたシータリズムは実は伝搬していたのです。このシータ進行波はPatel ら(2012)によって再確認されています。興奮性のリカレントな結合が非常に少ないと考えられている海馬CA1領野で興奮波の伝搬が起こることは考えにくく、一つの可能性として、海馬CA3領野のシータ進行波がCA1領野に投射しているのではないかと考えられています。

海馬CA3領野が連想記憶機能を持つと考えると、興奮波の伝搬が頻繁に起こる海馬CA3領野はあまり良い環境だとは言えません。なぜなら、記憶パターンを埋め込んだリカレントシナプス結合がスパイクタイミングに依存したシナプス可塑性を持つわけですから、興奮波の伝搬によってシナプス結合強度が変化し、記憶パターンが失われていく可能性があるからです。海馬CA3領野はむしろニューロン集団の活動が伝搬するリズム発生源と考え、STDP学習則に従うシナプス結合強度の可塑的変化は、時系列情報をリカレントネットワークに埋め込む仕組みというよりは、局所領域に繰り返し入力が加わったときに組織化された興奮波の伝搬(シータ進行波)を起こす仕組みであると考えた方が良いように思います。動物のナビゲーションに必要な場所の時系列学習は海馬のシータリズムと深く関係していますが[e.g. O’Keefe and Recce, 1993]、これまで考えられてきた空間的に同期したシータリズムに基づくのではなく、シータ進行波に基づいた海馬の時系列学習機構を解明することが今後の課題として重要ではないかと思います。

参考文献

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(Dec. 2, 2014)