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活動報告

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高校生理科教室「コミュニケーションする脳!?」(2012)参加報告(2012.03.27開催)

高校生理科教室「コミュニケーションする脳!?」参加報告
B01G2 井出吉紀(玉川大学 脳科学研究所)

2012年3月27日、玉川大学脳科学研究所にて高校生体験理科教室「コミュニケーションする脳!?」が開催されました。当理科教室は、玉川大学脳科学研究所と文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明」と「予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用」の3者の主催で行われました。春休み中にも関わらず、本学玉川学園高等部の他、東京・横浜近隣の10校から総勢22名の生徒が集まりました(当日の欠席は4名でした)。当日は天候にも恵まれ、会場に集まった高校生達からは、初めての研究施設に多少緊張しながらも、最先端の脳科学研究に対する未知の体験にワクワクしている様子が我々にも伝わってきました。

初めに領域代表の津田一郎先生(北海道大学)と銅谷賢治先生(沖縄科学技術大学院大学)にそれぞれ各領域の目指す研究内容についての紹介と体験型理科教室の意義についてお話して頂きました。スポーツマンの一面もお持ちになる銅谷先生は、スポーツに対する情熱が転じて脳の研究をするに至ったご自身の経緯を話され、会場の高校生は皆熱心に耳を傾けていました。

玉川大学脳科学研究所の大森隆司先生による全体説明の後、4つのコースに分かれて体験型見学を行いました。各コースはそれぞれ、1.蓬田幸人講師による「脳のつながりを探る!<MRIによる神経線維追跡>」、2.鮫島和行講師による「「決断」と「駆け引き」の科学<意思決定・神経経済学>」、3.高橋英之講師による「ロボットが友だちになる瞬間<子どもの動きから探る興味の正体>」、4.私の担当した「脳に記憶を書きこもう<神経生理・海馬スライス>」という4つのテーマで行われました。どのテーマも各担当講師自身が研究している内容であり、高校生にとって脳科学の研究者が普段どのような環境で、どのような装置を使い、何を考えて研究しているのかについて直に触れる絶好の機会となったのではないでしょうか。

私の担当したコース4では、計8人の生徒を更に2人ずつ4つのグループに分け各グループ当たり1台の装置を使って実験を行いました。実際に高校生に顕微鏡を見ながら3次元マニピュレータを操作してラットの海馬スライスに刺激電極と記録電極をそれぞれ設置し、興奮性シナプス後場電位(fEPSP、field excitatory postsynaptic potential)を計測してもらいました。初心者には緻密な作業で根気の要るかなり難易度の高い実験ですので、途中で飽きてしまったり投げ出してしまったりするのではないかと当日まで心配でしたが、全くの杞憂に終わりました。生徒たちは、目を輝かせながら顕微鏡を覗き込み、マニピュレータを器用に操作しながら電極を設置しました。無事にEPSPを計測できた時には思わず歓声が上がり、こちら側も嬉しくなりました。その後、高頻度刺激(100Hzで100発)あるいは低頻度刺激(1Hzで1000発)を行い、シナプスの長期増強(Long term potentiation: LTP)や長期抑圧(Long term depression: LTD)を誘発する実験を行いました。更にLTPを誘発した後で低頻度刺激を行ったり、その逆のパターンを試みたりと、普段我々も行わない実験に挑戦してもらいました。残念ながらグループによって成功した班としなかった班が出てしまいましたが、実験終了後に生徒一人一人と結果についてディスカッションし、記憶・学習や忘却などの基礎と考えられるシナプスの伝達効率の変化について議論を深め、約2時間半の体験型見学はあっという間に終わりました。あともう少し時間があれば、追試実験を通して予想に反した結果となった原因を突き止めるなど更なる研究の面白さも味わって頂け、またディスカッションの時間も十分用意できて実験内容に対する理解もさらに深まったのではないかと思います。

約2時間半の体験型見学の後、再び参加者全員が集まり各コースの代表者1~2名に自分たちの参加した研究の概要や実験結果について5分程度のスピーチ形式の報告をして頂きました。十分な練習時間も無く、どの生徒もアドリブで説明していましたが、各自参加した実験の内容や各コース内でのディスカッションの内容について、堂々と自分達の言葉で分かりやすく説明していました。中には我々研究者もハッとさせられる、高校生らしい感性の率直で鋭い意見や感想も飛び出しました。

最後の講評で領域代表の津田先生、銅谷先生も「予想通りの結果が出ないのが研究です。結果を良く考察し試行錯誤することがとても大切です。」というお話をされていました。

昨今、子供の理科離れが問題となっていますが、今回集まった高校生一人一人の生き生きとした顔を見て安堵すると共に、理科教育の重要性を改めて感じました。最後になりますが、今回の体験理科教室開催にあたりご尽力頂きました各領域の先生方、実験助手の皆様、玉川大学学術研究所及び領域事務の方々に、心よりお礼申し上げます。