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活動報告

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包括脳夏のWS 「伝達創成機構」「予測と意思決定」合同シンポジウム参加報告(2012.07.27開催)

包括脳夏のWS「伝達創成機構」「予測と意思決定」合同シンポジウム
 Interactive brain dynamics for decision making and communication
「意思決定とコミュニケーションの脳ダイナミクスと相互作用」 参加報告
A01G1(津田一郎代表研究室)塚田啓道(北海道大学・大学院理学院数学専攻)

2012年7月27日、仙台国際センターにて包括脳夏のWS 合同シンポジウム「意思決定とコミュニケーションの脳ダイナミクスと相互作用」が開催されました。

本研究会は、2つの新学術領域「ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明」と「予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用」のコラボレーションにより、意思決定、他者の意図理解、意味の共有、役割分担などの過程を通じて情報創成されるダイナミックな神経機構を探り、人間行動のより良いモデルを構築することを目的にしています。

はじめに領域代表の津田一郎先生から「2つの領域が交流することによって新たな情報創成が生まれることを期待したい」とのお話をいただきました。

最初の演者として、沖縄科学技術大学院大学の銅谷賢治先生に「Toward understanding the neural substrate of mental simulation」というタイトルのもと、「予測と意思決定」新学術プロジェクトでは幅広い分野からの手法や理論を取り入れ、人間の意思決定のメカニズムを理解することを目標にしているとのお話がありました。研究はTheory and behavior, Neural circuit, Molecular controlの3つのグループに別れて行なっており、特に「モデルベース」の手法に注目して脳内シミュレーションの実体を解明することを目指しておられました。また、’grid sailing’ taskを人間のfMRI実験に発展させた研究や、トラックボール上に頭を固定したマウスの皮質のニューロンをtwo photon imagingで測定する’dead reckoning’ task の実験の紹介もありました。

次に玉川大学、磯村宜和先生に「Motor information processing in rodent primary and secondary motor cortices」というタイトルで、ラットがレバーを引いている間の運動野の神経細胞をjuxtacellular recordingとmultiunit recordingによって測定した実験結果を中心にお話いただきました。この方法を使うことによって、皮質の層毎の興奮性ニューロンと抑制性ニューロンの活動を記録することができるとのことです。さらにslow(40-60Hz) とfast(80-100Hz) gamma oscillationに対してほとんどのニューロンスパイク活動が位相同期しているという興味深い実験結果もありました。

3番目の講演者、高橋英彦先生には「Molecular neuroimaging of emotional decision-making」という題目で、感情的な意思決定や限定合理的な意思決定における神経伝達物質の役割についてのお話をいただきました。PETを用いてドーパミン受容体の密度を観測することで、人間の情動の分子レベルのメカニズムを明らかにするとともに、意思決定損傷の分子メカニズムを理解することは精神神経疾患の評価や予防にも繋がるという大変興味深いお話でした。

4番目の講演者は、玉川大学の大森隆司先生で「Modeling of mental state dynamics through the estimation by others」という題目で、子どもと遊ぶプレイメイトロボットを使って子供の遊びに対する興味の心的スタンスの変化を捉え、評価者から見た他者の心的状態の推定という方法でモデル化を試みるというお話を頂きました。特に子供の興味にはゲームの場面に応じてすばやく変化しつつも、飽きていく、熱中していくなどの長い時定数にしたがって変化する心的スタンスがあるとのことで、このスタンスを望ましい方向に変えていくことが優れたコミュニケーションを行う鍵となるそうです。果たしてロボットが人間の心を理解して振る舞うことができるようになるのか?心的スタンスの変化のモデル化ができれば、ロボットの友達が出来る日がくるかもしれないと思いました。

5番目の講演者は、New York UniversityのDaw Nathaniel先生に「Reinforcement learning in humans: Beyond the law of effect」という題目で、生命体の意思決定は過去の成功体験の強化学習によって強化されたbehaviorを繰り返すということだけではなく他の種類の知識によっても決断が変わるため、これらの影響をモデルベースの強化学習アルゴリズムを用いて強化学習理論のフレームワークにどのように組み込むことができるか理論と実験の両側面からお話いただきました。

6番目の講演者は、橋本敬先生で「Integrate study on co-creation of symbolic communication systems」という題目で、2人のプレイヤーが意味を推定できない幾何的なシンボルを送り合うことで、お互いの位置を推定する協調ゲームについてのお話をいただきました。最初は相手から送られてきたシンボルの意味が分からないのですが、やり取りを繰り返すことによって、意味のないシンボルに意味が創成される。そして、相手の部屋の予測が成功したペアーには3つのステージ(Building common ground, sharing a symbol system, forming a role division)があるというお話でした。この意味創成の過程における脳の活動を記録することで、人間がどうやって新しい情報に意味付けするのか?そのメカニズムやダイナミクスを探ることは非常に興味深いと思いました。

7番目の講演者は、慶応大学の今井むつみ先生で、「What makes language learning possible in human infants?」というタイトルで、乳児が言語をどうやって獲得するかという内容を中心にお話していただきました。言語を学習し始める年齢の11ヶ月の乳児に知らない単語と視覚的な形を同時に示しERP計測したところ、幼児がまるですでにその単語を知っているかのように処理しているような反応が見られるそうです。また、音と形の情報の間に関連付けが成功したときと失敗した時では、脳波の領域間のoscillationの出方が異なるとのことで、単語の意味創成にoscillationをどのように利用しているのか非常に興味を覚えました。

今回の2つのプロジェクトの合同シンポジウムは所々で共通の問題意識が見られ、プロジェクト間の交流が自然に行われていたように思えました。また、分子メカニズムからロボットまで研究分野も多岐に渡っていたため、色々な角度からのアプローチがあることを知ることができました。